第510話 ◆アリシアの大冒険(その21) 

◆アリシアの大冒険(その21)  



鉄の矢がヴイーヴルの右目を射貫いた後、ディアの姿が見えなくなってしまった。


辺りを必死に探したが見つからない。


もしかしたら暴走したヴイーヴルに踏みつぶされてしまったのだろうか・・・


もしそうなら、ほんとうにお手上げだ。  あたしは絶望感に包まれ始める。



見ればヴイーヴルは遥か遠くで矢の痛みに、のた打ち回っている。


目に刺さった矢は、脳の近くなので激痛なのだろう。



視線を移して見れば、その背中で何か小さなものがぴょんぴょんと動き回っている。


あれは・・・  もしかしてディア?


あたしはそれを確かめるべく、ヴイーヴルの方に向かって駆け出した。



近づいてみれば、それはやはりディアだった。


ちょこちょこ動きまわって、金の矢を番えヴイーヴルの左目を狙っているが、ヴイーヴルも激しく動き回るため、矢を放てないでいる。


ほんの少しの時間でもヴイーヴルの動きを止めることができればいいのだけれど、このままではきっとディアの体力が持たないだろう。


そう思ったら体が勝手にヴイーヴルの目の前に進み出ていた。


あたしの魔力も少しだけ回復してきたので、一回くらいは魔法を放てるだろう。



怒り狂ったヴイーヴルは、あたしに気づき向きを変えて突っ込んでくる。


あたしも氷結魔法の詠唱をはじめながら、ヴイーヴルとの距離を後退しつつも保っていく。


ディアの方を横目でちらりと見れば、うまく照準をヴイーヴルに合わせているようだ。


よし、ディア。 あとは頼んだわ!



凍てつく氷の刃たちよ!  目の前の敵を貫き、永遠に氷塊に閉じ込めたまえ!


いっけぇーーーーーぃ!!


威勢のいい声とは裏腹に、魔力不足の氷結魔法はひゅるひゅると威力なく飛んでヴイーヴルに当たったが、やはり体の表面を少し凍らせただけだった。


それでもヴイーヴルの動きを一瞬だけ止める。


そしてそれを見逃すことなく、ディアが金の矢を放った。



ヒューーーン


ズブッ


鈍い音を立てて金の矢は見事にヴイーヴルの左目に突き刺さる。


ギャオーーーー!!


断末魔の悲鳴をあげ、ヴイーヴルはその場に仁王立ちになったまま、まばゆい光に覆われ始める。



光はやがて小さな無数の粒になり、ゆらゆらと空高く昇っていくではないか。


その様は倒したというよりは、やはり浄化という言葉の方がぴったりだろう。



かなりの時間をかけ、ヴイーヴルの体は上部から少しずつ光の粒となって消えていった。


そして光の粒が全て消え去ると、その中心にアレッタの体が残されていた。



アレッタ、アレッタ!  しっかりして!


ディアがアレッタに駆け寄り体を抱きかかえ、息をしているか確認する。


よかった。 生きてる! 



ここじゃ手当とかもできないし、村に戻ろうよ。


そう言いながらディアが意識のないアレッタを背負いなおす。


ロキは?  ロキはどうするの?


あの子なら心配いらないよ。  あたしが先に村へ帰って村人に避難するように伝えるように言ったから。


そうだったんだ。


でも、もうヴイーヴルは浄化されたから、その必要はなくなっちゃったけどね。



ディアは先に行って。  あたしは、召喚した霊獣を元に戻さなければならないから。


わかった。 それじゃ、また後で会いましょう。


うん。



あたしは、ディアを見送ってから霊獣たちのところへ戻ることにしたのだが、これがディアとの最後の別れとなることをまだ知らない。




***


ちょっと。 ずいぶん久々の更新じゃないの?


はぁ・・


なによ?  どうしたの?


蒸し暑くて頭が回らないんですよ。


また変な言い訳を考えたものね。


自分は湿度が70%を超えると機能が停止するんですよ。


待ってて。 あたし加湿器持ってくる。


ねえ、セレネさん。 それって除湿器の間違いですよ。


いいえ、間違ってないわよ。


えっ?  どういうこと?

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