第507話 ◆アリシアの大冒険(その18) 黄金の矢

◆アリシアの大冒険(その18) 黄金の矢



ヴイーヴルは、あたしの目では捉えられない。


おそらくだが、空間が歪んでいるようにユラユラしている所に実体があるのではないかと思う。


実際に霊獣たちも、その一点を睨みつけている。


しばらくの間は、どちらもしかけずに膠着状態が続いた。


ただこの場に漂う重圧感や恐怖心に、いつまでも耐え続けることなど誰もできなかった。



そして最初にヴイーヴルに向かって行ったのは、ファーブニルだった。


ファーブニルはヴイーヴルと同じく、巨大な竜

ドラゴン

の一種だ。


巨大といっても、あたしの魔力が足りなかったので、召喚されたファーブニルは本来のサイズよりもだいぶ小さいと思われる。


ヴイーヴルの肋骨から推測すると今のファーブニルの大きさは、ヴイーヴルの三分の一にも満たないだろう。


つまり大きさだけなら、大人と子供の戦いなのだ。



でもファーブニルは果敢にも口から巨大な炎を吐き出しながら、空間が歪んで見える場所に突進して行った。


あたしはこの時、本当のドラゴンの恐ろしさを見たような気がした。


メイアがドラゴンの姿に変化して巨大化しても、こんなに恐ろしい姿ではない。



これなら霊獣3匹の同時攻撃で、ヴイーヴルを倒すことができるかも知れない。


そう淡い期待を一瞬持ったのだが、それはすぐさま打ち砕かれてしまった。


なんと、揺らぐ空間に近づいたファーブニルの首が、あっという間にドォッと音を立てて吹き飛んでしまったのだ。


そんな・・・  ヴイーヴルに触れてもいないのに・・・


頭部を失ったファーブニルの胴体が血飛沫をあげながら、のたうちまわる。



あたしは未だかつて経験したことのない、この修羅場に遭遇して体が固まってしまった。


残りの霊獣二体、フェンリルとリヴァイアサンは、さすがに臆することなく同時にヴイーヴルに向かって行った。


が、巨大狼のフェンリルは、目に見えない壁にはじき返されたように吹き飛び、リヴァイアサンの長い尾は途中からザックリと切り落とされた。


その尾は、トカゲの尻尾のようにバタバタとその場を跳ね回る。


もう辺り一面は、ファーブニルとリヴァイアサンから流れ出た血で海のようになっている。  こんな地獄のような場面に遭遇するなんて、ついさっきまでは思ってもみなかった。


この圧倒的な力の差には、もう絶望感しか浮かんでこない。


いったいどうしたら強大な敵ヴイーヴルを倒すことができるのだろう・・・



こんなところで何をしているの?


あたしが愕然としているといつの間にか、ディアが横に立っていた。


ディア・・ あなたこそどこに行っていたのよ!  あたしずいぶん探してたんだからね。


あたし、これを探しに行ってたの。


ディアはそう言うと手に持っていた金色の矢をあたしに見せてくれた。


それって?


これは、伝説の矢だよ。  この伝説の弓と一緒に使うことで、強力な破壊力が生まれるんだ。


もしかしたら・・・


うん。  この黄金の矢なら、ヴイーヴルを倒すことができるかもしれない。


大昔、この矢でヴイーヴルを倒したって言い伝えがあったんだ。



ディアは、それでその矢を探してたの?


うん。 もし言い伝えが本当なら、ヴイーヴルの死骸の傍にきっと矢もあるのかなって。


それじゃあ、あのヴイーヴルを倒したは、ディアのご先祖さまなの?


両親からは何も聞いていないし、それは分からない。 


でも伝説の勇者さまの玄孫なんでしょ。 きっとその勇者さまがヴイーヴルを倒したのよ。


この時のあたしは、自分の僅かな希望を黄金の矢に向けていた。  まさに溺れる者は藁をも掴む状態だ。


もちろん黄金の矢が藁にならないことを祈りつつだけど。





***


霊獣ってなんの役にも立たないじゃない!


それはきっとアリシアの魔力が足りなかったんですよ。


あんた、期待させておいてサイテーね。


いやいや、元々が対ヴイーヴル用ではありませんからね。


サイテー サイテー サイテー


なんだか、死にたくなってきました。

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