第491話 ◆アリシアの大冒険(その2)

◆アリシアの大冒険(その2)


ちょっとお行儀が悪いけれど、パン屋さんで頂いたミルクパンを食べながら、貿易港へと夜道を急いだ。


夜は大きな通り以外は街灯も無く真っ暗だから、パンを食べている間は一本奥の道を歩く。


所どころに、家の窓からさし漏れる明かりがあるので進む先を見失うことはない。


それにこの辺りの道は、国土大臣のメイアちゃんがしっかり舗装をしていたので、夜道でも躓くようなこともない。



***


あたしが、貿易港に辿り着いたのは、お城を出てから2時間が過ぎたころだった。


予想通り港には、他国から来た大きな船が停泊している。


これから荷を下ろす船、ここで荷物を積み他国へ向け出向していく船、長い航海で傷んだ所を修理する船。


いろいろな船が停泊している。


まずは記憶を辿り、たくさんの船の中から、知り合いの船長の船が停泊していないか探すことにした。


雨はまだ本降りではないけど、夜の雨は視界を奪う。


船には灯りが点っているが、船影を確認するのは非常に困難な状況だ。



仕方ないので、あたしは夜が明けるまで雨宿りができる場所を探す。


少し歩くと、ちょうどレンガで出来た倉庫が並んでいる場所に、大きな軒がある倉庫があったので、そこの下に入る。


2階に上る階段のステップに腰をかけて、ぼぉっと海を見ていたら急に眠くなってしまった。


そういえば、普段ならぐっすり眠っている時間だ・・・



***


あれ?  ココどこ?


どうやらあたしは、倉庫の階段で眠ってしまったらしい。


でも、ここは倉庫と違う。


少し狭めのベッドの上だ。  それに体がゆらゆら揺れている。


なんだか懐かしい感じ・・・  そうだ! ここは船の中に間違いないわ。


でも、いったいどうして?



あたしはベッドの上からおりて、部屋のドアを開け廊下に出た。


狭い通路・・ やっぱりここは船の中だ。


しかも、波を切る音がするので、この船はもうどこかに向けて動いている。


いったいどこへ向かっているのだろう。



あたしは、いったん甲板に出てみる。


そこには昨日の雨がうそのように、真っ青な海と空がどこまでも広がっていた。  


サァーーー


海風が全身を撫でていく。  この季節の風は、とても気持ちがいい。




おや、アリシアさん。 やっと起きましたね。


あたしは名前を呼ばれ、ちょっと驚いたけど、その声は知っている。


モッフルダフ! いつの間に?


ホホホ  2年ぶりですか。  大きくなりましたね。


昨日、仲間と飲んで船に戻るときに、倉庫の隅でアリシアさんを見つけましてね。 


風邪でも引いたらたいへんなので、わたしの船にお連れしたのです。



そうだったの。


ねぇ、モッフルダフ。 この船はどこに向かっているの?


あたしは一番気になっていることを聞く。




ホホホ  エリージャ伯爵様へ荷物を届けに行きます。


あたしは、その行先に驚く。  この方角なら、エルフの里にも早くつけそうだ。


な・・ならば、あたしも一緒に乗せて行ってくれる?


アリシアさん・・ もう乗ってるじゃないですか。


あっ!  言われてみればそうね。


ホホホ  いったんこの先の島で荷物を下ろしますが、そこからお城へ帰りますか?


いいえ。 あたし、エルフの里に帰るところなの。  だから、一番近くの港で下ろしてくれると嬉しいわ。


いいですよ。 でも、いくらこの船が速いといっても半年はかかりますが。


いいわ。 もともと船を乗り継いで帰ろうと思っていたもの。


そうですか・・ ひょっとして、セレネさんと喧嘩でもしましたか?


そ、そんなことないわ。


それならいいですけど。


モッフルダフは、何か聞きたそうな雰囲気だったけど、この後は特に話しかけてこなかった。


あたしは、船賃の代わりに船での炊事や雑用をさせてもらい、特別にさっき寝ていた部屋も借りられることになった。



ここまで順調に事が運んだし、ひさびさの航海になんだか心がワクワクし始めた。 


きっとこの先、素敵な事が待っているはずに違いない。




***


あんたさあ、あたしがアリシアを探してるの知ってるのに、どうしてくれるのよ!


いや、この先はアリシアさんが主役ですから。


えっ?


だから、セレネさんは当面の間、出番は無しです。


そ・・そんなぁ。


タイトルを見れば分かるでしょ。


それなら、あとで「セレネの大冒険」に書き換えてやるわ!


いやいや・・ 本当にやりそうで怖いですよ。


うふふ JKに二言はないからね。

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