第484話 ◆天界再び滅ぶ
◆天界再び滅ぶ
ヴォルルさんは、大神殿の長老たち目掛けて急降下しながら突っ込んでいった。
それを見た、大神は手にしたユグドラシスの槍を振り上げる。
天界に災いをもたらす悪魔め! この世から消え去れ!
ダァーーーーッ!
さすがに大神だけのことはある。 勢いよく投げられたユグドラシスの槍は、ヴォルルを目指しまっしぐらに飛んで来る。
バリバリバリッ
ヴォルルさんも、その槍の延伸上にいる大神に向けて強力な電撃を放つ。
しかし、この攻撃が裏目に出てしまう。
大神が投げた槍の先に電撃が当たって跳ね返り、その電撃が今度はあたし目掛けて飛んできた。
バババッ
キャーーー
ヴォルルさんの強烈な電撃をもろに受けたあたしは、思わぬ事態に悲鳴をあげる。
そして大神が投げたユグドラシスの槍は、そのままヴォルルさんの体を貫いた!
ドォッ ズブッ
ぐわーーー!
ヴォルルさんの悲鳴に、その方向を見たあたしは思わぬ事態に驚愕した。
いま、槍に貫かれたヴォルルさんの体は、まさに霧のように霞み消えて行くところだった。
ユグドラシスの槍は、大神に念じられた通り、ヴォルルさんをこの世から消滅させてしまったのだ。
う゛ああぁぁぁぁーーーーーー!
目の前で槍に串刺しにされ消滅したヴォルルさんを見たあたしは、怒りと悲しみで獣のような咆哮を上げる。
自分の目の前で、あのヴォルルさんが大神の手で殺されてしまった。
アリエルを助けるために一緒に戦ってくれたのに、ただ殺されるのを見ていることしか出来なかった・・・
あたしはもう、自分の感情をコントロールすることができない。
体の中心からは深い悲しみと怒りが沸き上がり、全身から業火(ごうか)が噴き出した。
その炎の高熱をもろに受けた大神殿の外壁は、早くもドロドロと溶け始める。
そして大神殿の前にいた長老と呼ばれた神々は、散り散りとなって逃げ惑った。
あたしの体から噴き出す炎の先端からは、炎の塊がまるで焼夷弾のようになって地上へとボタボタと落下していく。
その炎の塊に当たった神たちは、全身を炎に包まれて黒焦げになり、バタバタと倒れていった。
たださすがに大神だけはユグドラシスの槍を拾い、再びあたしに向けて力いっぱい投げつけて来た。
それは大神が放っただけのことはあり、槍はあたしに向かって真っすぐに突き進んで来る。
だが、あたしの怒りと憎しみがユグドラシスの槍の力を上回っていたため、ユグドラシスの槍もあたしの体に触れた途端、燃え尽きてしまった。
う゛わぁぁぁーーーーー!
あたしは吠えながら、辺り構わず暴れまわった。 もうこの世界で誰一人、いまの自分を止めることは出来ない。
気が付けば、大神殿の周囲20kmは焼野原となっていた。 もちろん大神殿は跡形もなくなっていた。
燃え尽きたのは天界だけではなかった。
あたしも心を閉ざし、一切無反応の魂の抜け殻状態となっていた。
***
うっすらと目を開くと、そこはお城の自分の部屋のベッドの上だった。
あの後、遅れてやって来たサリエルが放心状態のあたしをお城まで連れて来てくれたのだそうだ。
心の中は空っぽなのに、ずっと涙が出ていた。
まるで体中の水分が全部涙になって外に出てしまったかのようだ。
それでも、あたしはベッドの上から起き上がることができなかった。
北の湿地帯の魔物たちも、天界があの状態になってからピタリと出現しなくなったため、残りの討伐隊とヴォルルさん1/10、メイアも帰還してきていた。
やはり北の湿地帯の魔物たちは、天界が陽動作戦のために手をまわしたものだったのだろう。
天界の中心部があたし(セレネ)によって壊滅したという報は、僅か10日の間に世界中を駆け巡った。
そして200人以上のヴォルルさんの死も同時に伝わり、ヴォルルさんが住んでいた各地にも深い悲しみをもたらしたのだった。
***
あたしは、アリエルを助け出そうと天界まで行ったものの、結局大勢のヴォルルさんを失っただけでアリエルを救い出すことは叶わなかった。
いったい亡くなったヴォルルさんたちにどう詫びればいいんだろう。 もう、ほんとに死んでしまいたい。
ベッドで布団を被ってモンモンとしていると・・
セレエルさま。 ヴォルルさんがお見舞いに来てくださいましたよ。
サリエルがヴォルルさんと二人で薄暗い部屋に入って来た。
は~い。 セレネちゃん。 ずいぶん しょぼんとしてるわね~。
ヴォルルさん。 ごめんなさい。 あたしのせいで・・ たくさんのヴォルルさんを・・・
あらあら、そんなに気にしなくたって大丈夫よ。
所詮消滅したのはコピーなんだからね。 本体かコピーが一人でも残っていれば、1日で元通りよ~♪
えっ そうなんですか?
うふふ 驚いたでしょ。 でも、今回はちょっと危なかったわね。
ほんと全員で合体してなくてよかったわ~。
あたしは、ヴォルルさんの言葉に心底安堵した。
セレエルさま。 もう一つ朗報があるんですよ。
そう言って、サリエルがあたしに笑顔を向ける。
???
アリエルの行方が分かったんです。
ほんとう!!
ええ ほんとうです。 それにあの娘ったら、クロノスっていう男神と結婚するらしいです。
えっ? なに? 結婚? 娘?
いきなりの情報に頭が混乱する。
それってどういう事!
ああっ! ちょっ 痛いデス! セレエルさま、やめてください!
興奮したあたしは、無意識にサリエルの肩をつかみ前後に激しく揺さぶっていたらしい。
ご、ごめんなさい。
ほんとうにしょうがないですね。 もっとサリエルを大事にしてくれないと。
それで、アリエルは今どこに?
天界の外れにあるクロノスの神殿にいるみたいです。
こうしちゃいられない。 サリエル、すぐにそこに行くわよ!
あらあら、セレネちゃん。 まだ動いちゃダメよ!
今にも飛び出さんばかりのあたしにそう言いながら、ヴォルルさんが魔力であたしを浮かしベッドの上に連れ戻す。
でも・・
アリエルちゃんだって、彼氏といるほうが楽しいわよ! セレネちゃんは、もうお邪魔虫なの!
このヴォルルさんの一言で、あたしの心がバキッと音を立てて折れた。
アリエルに男が・・・ あたしより男が・・
あたしはショックで再び布団を被り、引きこもったのだった。
***
セレネさん。 やっぱり親より彼氏ですよ。 そんなに落ち込まないでください。
彼女いない歴イコール自分の歳のあんたに何が分かるのよ!
びどい・・・ 慰めてあげたのに、あんまりじゃないですか!!
だって、ついこの間まで赤ちゃんだったのに・・ しかも男の子だと思ってたのよ!
それが娘で、もうオトコとなんて・・・
あーー めんどくせー
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