第451話 ◆一網打尽

◆一網打尽


楽しかったねー  セレネも一緒にくれば良かったのに。


でも、帰ったらきっと仕事が山のように溜まってますよ。  コリン君がアリシアを怖がらせる。


ねっ、これから引き返そうよ。  あたし帰りたくない。  


アリシアさん、現実逃避は感心しませんよ。


だってー 帰ったら地獄じゃない。


アリシアさん。 働かざる者食うべからずですよ。


あー あたし早く大人になってお嫁さんになるー。 そうすれば、あんな重労働しなくって済むもん。


ふっ


コリンってば、なに笑ってんのよ!


いや、いまだってしょっちゅうダイエットしてるのに、楽したらぶくぶく太るんじゃないかってね。


いやーーー!



そんなたわいない話しをしながら、一行は大陸最北端の峠へと差し掛かかった。


峠の一番狭くなった道では、エルサが魔力を籠めた大きなネットを持って待ち構えている。


そして、エルサがここに来たらネットを投げると決めたポイントに全員が入った。



よしっ、いまだ!


エルサが投げたネットは漁師が投網とあみを投げたかのようにパッときれいに広がり、全員を一網打尽にする。



うわっ なんだコレ?


いやーん  髪の毛が絡まったー


ふぎゃっ


ティア 大丈夫か?


兄さま、助けて! 動けないわ!


ちっ この網は、魔力封じがかけられている!



ふふふ 完璧だ。 この大魔導士エルサに失敗などは有り得ないのだ!


それ、お前たち。 あいつらをネットごと岩山の牢獄に放り込んでおけ!  牢獄に閉じ込めたら岩山を崩して入口を塞ぐのだぞ!


エルサは配下の者たちにそう命じるとセレネのもとへ急ぎ引き返した。



しかしエルサは一つ過ちを犯していた。 それはネットの網目の大きさである。


シルフとブラックは、羽をたためばこの網目からするりと抜けられたのだ。


そして二人は抜け出すと近くの岩陰に身を隠した。



・・・



一方こちらは、そんなことが起きているとは全く知らないセレネ。


何をしているのかと思えば呑気に、自分で「ぼたもち」を作って大きな口を開けて食べている最中である。


うーん  うまうま。


また太っちゃうかも知れないけど、このうまさには勝てないわー。


これって、もう一工夫すれば商店街で売れるかもしれないなー。


おっと、エルサの分まで食べちゃうところだったよ。  あっぶねー あっぶねー


それにしても、エルサはどこに行ってるんだ?  夕方までに帰ってこなかったらこのエルサのぼたもちも、あたしのものだね。


・・・



そして、エルサは夜遅くに帰って来た。


だから、あたしは夕飯を二人前とぼたもち二つを食べて妊婦さんのようなお腹になり、いま激しく後悔している。


明日の朝、エルサに文句言ってやらなきゃね。



たった一回の食べ過ぎで1週間もダイエットに励まないといけないのはどうも納得いかない。


1食食べ過ぎたら次の食事を一回抜けば元に戻りそうなのにどうしてそうならないのだろうか。




そして次の日の朝、あたしがエルサを探しているうちに、驚くべき知らせが届いたのだった。




***


セレネさん、「ぼたもち」と「おはぎ」は同じものなんですか?


ぼたもちは春のお彼岸、おはぎは秋のお彼岸に食べるんじゃないの?


へ~ 牡丹の花とか萩の花とか関係あるのかなっと思ってました。


だから季節が関係してるんじゃないの? あとは、こしあんとつぶあんの違いとか?


あっ そういうことですか。  じゃあ、あんころ餅はどう違うんですかね?


・・・ ねぇ、美味ければそんなこと、どうでもよくねっ?

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