第389話 ◆血だらけやん! (血×13個)

◆血だらけやん! (血×13個)


ここはいったいどこだろう?


頭がぼぉ~っとして、考えがまとまらない。


確かあたしはティアと二人で、アリシアたちの後を尾行していたはずだ。


体を縛られているので視界が限られるが、ここはどこかの物置のような所に違いない。


それは、鍬くわや大きな鎌かまや収穫した穀物を入れる麻袋など、見える物でなんとなく分かる。


でも、さっきまでは商店街に居たはずなのに、あたしはどうしてこんな所で体を縛られてるのだろう。



ガタ ガタッ


小屋の引き戸が音を立てて開き、誰かが入って来た気配がする。


でも、あたしが縛り付けられている椅子は、入口とは反対側を向いているので人の顔は見えない。



ふぅ やっぱり。 エリージャ伯爵の次のお相手はセレネさん、あなただったのですね。


あたし、セレネさんだけは殺したくなかった。  でも仕方がないの。  許してください。



(そ、その声は葵さん?  葵さん、あたしを殺すって何を言っているの?)


ふぐっ?!  ふぅぅん!  猿ぐつわをされているので、あたしの声は葵さんには届かない。



せめて苦しまないように、一突きで殺して差し上げます。


あ・・あおいさん・・・  なんで・・



死ねっ!


グサッ


ガハッ



セレネさん・・・  ごめんなさい。  でも、あなたを殺さないと夫もあたしも殺されてしまうの。


(なんですって。  それはどういうこと?)


セレネは、葵に刺される直前に、左胸に小さな虚構空間を一時的に作って致命傷を回避したのだ。


しかし、ナイフを刺した手ごたえや出血がなければ怪しまれてしまうため、深さ2cmくらいの傷はついている。 


これが結構痛かった。 死んだふりで呼吸を止めているのも加わって苦しさは倍増だ。


お願いだから早く立ち去って!  もう神様、仏様、サリエル様である。



葵さんは、あたしが確実に死んでいるか入念に確認している。  これは、アサシンとして当然の行為なのだろう。


胸も血だらけだし、痛さで涙が頬を流れていたのはプラス方向になったようで、やがて葵さんは小屋から出て行った。



ふぅ、ヤバかった~。   あ痛たた。  結構出血してるし、とりあえず止血しておかないとまずいよね。


あたしは治癒魔法が使えないため、アリシアかニーナに傷を治してもらわなければならない。



実はアサシン葵が刺した刺傷は、あと少し深ければ心臓に届いて即死だったことをセレネ自信はこの時知らない。


もし、そのことが分かったらセレネの性格なら大騒ぎしてただろう。




それにしても、あたしがエリージャ伯爵の次の相手とか言ってたけど、それでなんであたしが葵さんに殺されなければならないんだろう?


エリージャ伯爵たちが、あたしを拉致しようと狙っているのは薄々分かっていたけれど、葵さんとの関係がさっぱり分からない。



いまここでこれ以上考えてもしょうがないので、あたしは炎でロープを焼き切って農具小屋を後にした。


なにしろ、傷の手当が最優先だ。  なんだかヤバい感じがするし、早くお城に戻ろう。 


・・・



ここは、セレネ城。  セレネが通った跡には、血がボタボタ垂れている。  どうやら止血が不十分だったようだ。


きっとこれを綺麗好きのサリエルが見つけたら、めっちゃ怒るだろうな・・・



きゃーー  ママ、どうしたの?  服が血だらけよ。


先にニーナに見つかったのはラッキーだ。  話しは後で。  ニーナ、傷の手当をお願い。


わかりました。 ここに座ってください。


ニーナに体を支えてもらいソファに座ろうとしたが、力が入らずそのままソファに倒れ込む。


こんなに体から血液を失ったのは、吸血ヒルにやられた時以来だ。



服を脱がせます。  というか切り取りますよ!


うん。 ちょっと気に入ってた服だけど、こんなに血だらけじゃもう着れないしね。



いったん傷口を洗浄します。  ママ、ちょっと痛いけど我慢してね。


うん。  あ゛ーーーー 痛たた。  ぐわーーーっ。  イデデデーーー!   死ぬーーー!


はいはい、騒がない。 それじゃ治癒魔法をかけますから、じっとしててください。


パァーー  ニーナの両手からみどり色の眩い光が溢れ出る。


はぁーーー  しみるーーー。




ちょっと、セレネが帰って来てるんだって!


あちゃー うるさいやつがお出ましかぁ・・・


やだ、セレネってば怪我してるの?   さっそくアリシアが血だらけのあたしの服を見つけたようだ。


はい、結構重症です。 


いったいどうしたの?


アリシアさん、あたし死にそうなんで、黙るかあっちに行っててくれるかな。


な、なによ!  人が心配してあげてるのに!


アリシアさん、ママは出血多量死寸前なんです。 治癒の邪魔になるので、ごめんなさい。  珍しくニーナが大きな声を出す。


えっ、あたしマジで死にそうなの?  ←セレネ


そ、そうなの?   ごめんなさい。  あたしもお手伝いします。


アリシアが、シュンとして治癒を手伝い始めた。


・・・



ニーナとアリシアの懸命な治癒魔法の力で、あたしはなんとか死なずにすんだ。


で、今まで起きたことをみんなに話して聞かせたのだけれど、はじめはみんな、あたしが夢でも見たんじゃないかと信じてくれなかった。


でも、ナイフで刺された傷もあったし、あたしの話しを聞いたコリン君の調査で拉致監禁の事実もあきらかになった。


コリン君が農具小屋の近くまで着いた時、小屋の中からエリージャ伯爵や従者が青ざめた顔で出てきたそうだ。


まあ、あたしが縛り付けられていた椅子は、血まみれだったからね。


後から分かったのだけれど、結局伯爵たちは大慌てで宿屋に引き返した後、一番早い飛行船に乗って帰国の途についたようだった。


また、葵さんたちも伯爵たちが帰国した時の飛行船に同乗していたらしい。



これで、穏やかな日常が戻ってくるだろう。


おっと、ティアには何か後で、意地悪でもしてやるかな。  そうだ、トランプゲームがいいかも。


もちろん敗者は下僕という伝統的なルールでね。




今回はセレネの刺され損というところでしょうか。  それでは、次のお話しをお楽しみに。

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