第384話 ◆葵さん疑い始める

◆葵さん疑い始める


今日はセレネさんに、商店街や王立図書館、漁港、果樹園などを案内してもらった。


夫もこの国を気に入ったようで、終始笑顔だった。


あたしも今度の仕事がうまくいったら、組織から抜けられる約束になっている。


だから、あと一人始末できればこの国へ移民して、その後は穏やかに暮らすことができるのだ。


明日からは、飛行船で一緒だったエリージャ伯爵の行動を監視し、ターゲットを絞り込んでいけばよい。


そうすれば、あたしの願いは叶う。



問題はエリージャ伯爵の行動を監視するため、ひとりの時間を作らなければならないことだ。


これは、鉄道馬車でセレネさんと一緒にいたティアという娘に、裁縫を教える約束をしたと嘘をつくことにした。


それであたしは、3日ほどティアのところに教えに行ってくるので、その間にこの国でお店を開店するための下調べや手続きなどをやっておいてと夫に頼んだ。


・・・


あたしたちが泊まっている宿は、セレネさんが手配してくれた。


その宿屋はお城の近くで、エリージャ伯爵が泊っている高級な宿屋の斜向かいにある。


なので部屋の窓からも伯爵を監視することが可能だ。


朝食を終えたあと夫を送り出して、自室から表通りを見張る。


すると早速、動きがあった。


エリージャ伯爵の付き人の男と女たちが宿屋から出て来たのだ。


そして、3人はそれぞれ別の方角に向かって歩いて行った。  おそらく、目的の女の情報を仕入れに出かけたのだろう。


あたしもその中のひとりの後を、こっそりつけてみることにした。


どうやら男は、伯爵の執事のようだ。  物腰や立ち振る舞い、雰囲気からそれと分かる。


何人かの町人と話をしているが、やはり執事は女の聞き込みをしているようだ。


あたしは気付かれないようにそっと近づき、耳をそばだてた。



それではセレネさまは、あの天界を相手にしてワルキューレを降伏させたと・・・


なに?  なんで執事はセレネさんのことを?  そうか、世間話しをきっかけにして色々なことを聞き出していくつもりなのか。


ならば、別の女もあたってみるか。



あたしは、別の方角に歩いて行った女の方に向かった。  女は身長が高いので、直ぐに見つかった。


あんなに目立ってしまってもいいのだろうかと思いながらも、女の背後に近づく。


するとやはり、セレネさんのことを聞いているではないか・・・



それではセレネ女王さまは、週に1回はこの商店街にお買い物にいらっしゃるのですか。


ええ、ここの催し物なんかにも必ず顔を出されますし、お手伝いをよくしてくださいます。


お買い物には、何時頃にいらっしゃるのですか?  あたしも一目お目にかかってお話ししてみたいですわ。


そうですね・・ 何曜日にとは決まっていませんけど、午前中にいらっしゃることが多いでしょうか。



まさかもしかして、伯爵の次の相手というのは、セレネさんなの?


あたしは、少し動揺し始めるが、もう一人女がいたのを思い出し、直ぐにその女が向かった方角に歩き始めた。



漁港の近くにその女はいた。 こっちの女も大きい。  もしかするとさっきの女よりも背が高いかも知れない。


女は漁船で漁具を掃除している漁師たちと何やら話しをしている。



いやー セレネさまは、この間5m級のカジキマグロを釣り上げてたんだよー。


俺ら漁師だって滅多に連れない大物なのに、やっぱりあのお方は凄いわ!



やっぱり・・  なんでよりによってセレネさんなのよ・・


まだ、確定したわけではないが3人が3人ともセレネさんの聞き込みをしている。 これが偶然である可能性はとても低いだろう。



なんだか酷く疲れたし喉も乾いた。  あたしは、いったん宿に戻ることにした。 

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