第270話 ◆天使に抱かれる
◆天使に抱かれる
シルフとブラックさんは、もう仲直りできたの?
自分は問題ないが向こうがまだ。
ブラックさんは、まだシルフを許してあげれないのかな?
あれは、自分だけいい思いをしてきた。 あたしは寂しいままだった。
だから憎かった。
そう・・・ でも、ブラックさんは何で今まで姿を見せなかったの?
それは、あいつが幸せそうだったから・・
ブラックさんは優しいんだね。 でも、これからはみんな一緒だよ。
ほんとう?
だって、ブラックさんとシルフは、もともと一つだったんでしょ。 だったら、シルフの仲間はブラックさんの仲間でもあるよ。
う・・うれしい。
だったら、天使さんに頼んで一つにしてもらおうよ。
いや、それはダメ。
どうして?
ひとつになったら今の自分が居なくなってしまう。
う~ん それもそうか。 でも何れにしても、そのボールみたいのから出るためには、天使さんにもう一度会って話しをしないといけないねぇ。
でもなんか、あの天使さんって頭が硬そうだったし、あたし苦手なタイプだな。
・・・
次の日、このままボールに閉じ込められたままなのは、あまりに不憫なので二人を連れて再び山へ向かった。
メイアはヴォルルさんに正気に戻してもらったけど、まだ心配なので留守番をさせてきた。
シルフ、確かこの辺りだったよね?
そう思う。
お~い 天使さ~ん いますかーーー?
お~い。
しばらく呼び続けても天使は現れない。
今日は天使さん、どこかに出かけちゃってるのかなあ・・・ せっかくボール二つも持って来たのに・・・
セレネ、ボールってひどい。
アハハ ごめん ごめん。 だってさ、山道登ってくるの大変だったんだよ。
あっ、ここだ。 ここで間違ないよ。
そこは、ちょうど直径が30mくらいの平らな草むらで、シルフとブラックが対峙した場所だった。
天使さんが戻ってくるかも知れないから、ここで少し待ってみようね。
あたしは家から出てくるときに持って来た、布を草むらに敷いてその上に座った。
自分で作ったリュックサックから、水筒とサンドウィッチを取り出して自分の横に置く。
ボールに閉じ込められている二人は暑くて大変なので、水筒の水を小さなコップに入れて先に飲ませてあげた。
木々の間から陽が射して、ポカポカと気持ちがよい。
たまに、風が吹くと木と草の匂いがして、よけい眠くなってしまった。
・・・
・・
・
どうやら、あたしはこの場所で眠ってしまったらしい。
小さな子供のころに戻って、お母さんに抱かれて甘えている夢を見ているようだ。
でも、お母さんの顔は、ぼや~としてはっきり見えない。
夢の中では、懐かしいような、悲しいような気持ちで涙が溢れている。
おかあさん・・・
はっとして眠りから覚めると、ほんとうに後ろから誰かに抱きしめられていた。
不思議と心があたたかくて心地よい。 だんだん意識がはっきりしてくるが、しばらく目を瞑ってじっとしていた。
結構長い時間そのままでいたと思う。 自分の体に回されていた腕をそっとつかんで後ろによけ、体を捻って後ろを向いた。
すると目の前に天使さんがいた。 天使さんは、スゥスゥと寝息をたててぐっすり眠っている。
寝顔があまりに美しく、しばらくの間見とれてしまった。
天使さんに会えたのは良かったのだけれど、このままではシルフ達をボールの中から出してあげられない。
天使さんを起こすべきか、それとも目覚めるまで待つか、あたしは悩んだ。
そして、あたしは意を決して、天使さんを起こすことにしたのだった。
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