第259話 ◆メイア魚をもらって喜ぶ

◆メイア魚をもらって喜ぶ


あたしたちは、たちまち人魚族の男たちに取り囲まれてしまった。


どうするのセレネ?  珍しくアリシアがひそひそ声で訊いて来る。


そうだね、しばらくは様子をみるしかないね。


シルフもメイアも手出ししてはダメよ。


わかった~


メイアが、あたしに引っ付いたまま、気の抜けた返事をしたので緊張感がちょっぴり和らいだ。



あたしとアリシアは、降伏のしるしとして両手を高く上げた。


すると人魚たちは、自分たちについてくるようにと言ったあと、わたしたちを囲んだまま歩き始めた。


仕方なくゆっくり歩き始めるが、人魚たちがあたしたちを取り囲み壁を作っているので、周りがよく見えない。


やがて、そのまま眩い光の中へと吸い込まれていった。



・・・


気付けば、大層立派な宮殿の中にまで連れて来られている。


国王さま、例のアンデットの船に乗っていた癖者どもを捕らえて参りました。


屈強な人魚族の男の一人が大きな声で、遠くに座っている初老の人魚に報告をした。


!!


あたしは、この一言で自分たちがどうしてこんな事態に巻き込まれたのかを理解した。


アンデットからの戦利品として使っていた船の所為で、海賊と間違えられているんだ。


これはまずいな。  早く誤解を解かなくてはどうなるか分からない。



見たところこの者達はアンデットでは無いようだが?  国王と呼ばれた人魚があたし達を見て首を傾げる。


王様しかしながら、この者どもが乗っていた海賊船には我々の仲間がたくさん殺されております。


同じ船に乗っていたということは、この者どもも海賊の一味に相違ありません。


ふむ・・  ならば死刑に処せ!


ははっ



待ってください!  あたし達はただ、あの船に乗って襲撃して来たアンデットと闘い、戦利品として船を利用していただけです。


人魚族の人々を殺めたことなどありません。



ええい、黙れっ!


周りにいた人魚達が一斉に銛をあたし達に向ける。



ほんとうです。  信じてください!


あたしは、国王の顔を真っ直ぐに見つめた。



黙れ黙れ! もう、国王さまのご指示は出ているのだ。  潔く刑に服せ!   それっ、刑場に連れて行け!


こうなっては仕方がない。  アリシア、メイア、ひと暴れするわよ!


きらっ


その時、あたしが首からかけていたネックレスが光に反射して一瞬輝いた。


おおっ、その首飾りは予が孫のモモに授けた物ではないか。  国王が身を乗り出して首元のネックレスを凝視している。



あれっ?  もしかしたらあなたは、モモちゃんのお父さまですか?


まさか国王さま、この者達はモモさまに危害を加えて・・・  兵士の一人が今にもあたしを突き刺そうと銛を構える。



いや、モモには先ほど会ったばかりじゃ!



このネックレスは、モモちゃんが友達の証しとして、あたしにくれたものです。


あたしたちとモモちゃんは仲良しなんです。



プッ セレネったら必死だわね。  アリシアがあたしにだけ聞こえる声でボソッと吐き捨てる。


ちっ 後でこいつだけ、アンデットの仲間だと言ってやるか。



首飾りの件は、モモから聞いておる。  それでは、そちがセレネじゃな?


はい、あたしは九条セレネ・オウゼリッヒと申します。



これは、我国の兵士たちがたいへんな失礼をした。  ゆるして欲しい。


いいえ、あたしたちもあの船のアンデットたちには酷い目に遭わされました。  誤解が解けてよかったです。



モモもまだ、宮殿のどこかにいるはずじゃ。  探させるので、ゆっくりして行かれるがよい。



こうして一転、あたしたちは客人として、立派な部屋に通された。


モモちゃんを待っている間に、豪華な料理がたくさんテーブルに並んだ。


みんなお腹が減っていたので、遠慮せずにたくさんいただいた。


どれもこれも、初めて見るような料理だったけど、みんなとっても美味しい。


あたしも久しぶりにダイエットのことは隅に置いて、お腹がいっぱいになるまで食べた。


特にメイアは、マグロに似た大きな魚をたくさんもらって、超ご機嫌だった。



食事がすんで、別の部屋でくつろいでいるとモモちゃんがやって来た。



わ~ モモちゃん久しぶり~  元気にしてた~。


あたしはモモちゃんに駆け寄り、手を取ってモモちゃんを見て驚いた。


なぜなら、その愛らしい瞳から、大粒の涙が溢れていたから・・・



次回へ続く・・・

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