第203話 ◆ねこは濡れたくない
◆ねこは濡れたくない
ねこは水に濡れるのが大嫌いだ。
それは、獣人目ねこ科のキャロンさんも同じである。
だから何時もだったら、こんなに小さなボートなんかには絶対に乗らない。
なにしろキャロンさんは、泳ぎが苦手なのだ。 いや、ほぼ泳げないと言ってもいいレベルだ。
今日は波は高くはないが、如何せんボートが小さいので結構揺れる。
もし、海に投げ出されたらモッフルダフを探すどころではなく、自分があの世行きである。
それでも、オールを漕ぎながら毛糸が漂っていないか探していく。
バシャッ
時々、何かが水面を跳ねる音がする。
そのたびにキャロンの耳がピクッピクッと音のする方に反応して動く。
いけないものが確実に近づいて来ている。
今のところは、こちらの様子を窺っているのだろうが、残された時間は少ない。
・・・
そのころ船では、セレネが甲板に作られた物干し台で洗濯物を干していた。
水はたいへん貴重なので、いかに少ない水で綺麗に洗うか、毎回工夫を重ねて来た。
内緒の話しだが女物を先に洗い、その残りで男物を洗う。 すすぎも同じ要領だ。
どうしても男物の服の方が、肉体労働が多い分汚れが多いからだ。
今日は天気も良いし、昨日から珍しく風が強いので、洗濯物もよく乾くだろう。
セレネは、日光浴の時に来ていたブラとショーツを干そうと、物干し竿を見上げたら黒い毛糸が一本絡まって凧糸のように空に向かって、はためいているではないか。
あっ・・・ ああーーーっ! 見つけたあーーーー!
みんなあーーーー モッフルダフを見つけたよーーーー!
あたしの大声で、みんなが物干し台に集まって来る。
あたしは、糸の端を掴んでクルクルと巻き取って行った。
毛糸の玉が拳大になると自分自身で勢いよく巻き取り始め、あっと言う間にモッフルダフの姿になった。
モッフルダフったら、何やってんのよ。 みんな心配してたんだからね!
すみません。 キャロンさんに弾かれて壁にぶつかった時、跳ね返って竿に端が引っかかってしまったんです。
弾かれた時の勢いと強風のせいで、一気にほつれて1本糸になってしまいました。
風が強かったので、どうしても自力で元の姿に戻れなかったのです。
なんだ、一言声をかけてくれたら良かったのに。
あ゛ーーー それはですね・・・ 一本糸になってしまうと声が出せないんですよ。
声って何かを振動させないと出ないでしょう。
あっ、そうだ。
キャロンさんが、モッフルダフを探しに行ったまま、まだ帰って来ないんだけど。
それは、まずいですね。 ここら辺の海域には、アイツが出るんですよ!
ねぇ、アイツって何? あたしは、急に不安になった。
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