第25話 ◆不思議な島

◆不思議な島


確かに、あたしたちが立ち寄ろうとしている島は動いていた。


それも、かなりのスピードだ。 島の後方には大きな船が通った跡にできるような航跡もはっきりと見える。

どうして、動いているのか・・・ 島ではなく、本当は船のようなものなのか?


それなら、あたしの世界にある豪華客船みたいなもので、もしかしたらお客さんが乗っているかも知れない。


メイアは、島に向かってグングン高度を下げ、近づいて行く。

まさに、ジェット機が空港に着陸するときのようだ。


滑走路はないが、メイアは鳥が枝に止まるみたいに翼を器用に前後に動かして、ふわりと島に降り立った。

メイアは、あたしが降りやすいように体を低くして首まで下げてくれる。


ありがとう。 お疲れさま、メイア。  頭と首を優しく撫でてあげる。

それを見ていたシルフが、凄い勢いで飛んで来て、自分の頭も撫でろと言ってくる。


シルフ・・もしかして焼きもち? 

するとシルフは、ほっぺたをぷくっと膨らませプイッとそっぽを向く。 

何もしなかったら、またあたしの胸をドカドカ叩いた。

あんまり可愛いので、膨らんだほっぺにキスをしてあげたら、ゆで蛸のように真っ赤になった。


後で分かったのだが、ほっぺにキスをするという行為は、妖精たちの中では求婚の意味があり、

キスされた女は、絶対に妻にならなければならないらしい。 つまり拒否権なしってことだ。

ゆえに妖精の女の子は、キスに対し慎重であり、軽率にキスされないよう警戒している。

つまり、あたしはシルフに不意打ちでキスをしたってことになる。


この日を境にシルフは、あたしに露骨にベタベタするようになった。

シルフ。 あたしは女だよ・・



島に降りて歩くと直ぐに、島の地面が柔らかいのがわかった。

沈み込むほどではないのだけれど、いわゆる腐葉土が積もった上を歩くのに感触が似ている。


辺りは低木や草が密集して生えていた。 この状況ではメイアは動きづらいので、降りた場所で待っていてもらうことにした。


鞄の中から、雑貨屋で買った短剣サバイバルナイフのようなものを取り出して、草木を払いながら前進する。

何か危険な獣人や猛獣が居るかもしれないので、周りに用心しながら歩く。 これでは調査に相当な時間がかかりそうだ。 

水と食料の確保ができるか不安になる。 島に寄らずに先を目指した方がよかったのだろうか。


ねぇ、シルフ。 池とか動物がいないか、ちょっと空から見て来てくれるかな。


わかった。 ここで待っていろ。

シルフは、そう言うとビュンと飛びたち、あっと言う間に見えなくなった。

あ~あ、あたしも飛べたら便利なのにな。


シルフが行ってしまって少しすると前方の茂みがガサゴソと揺れる。

何か来る? あたしは姿勢を低くし短剣を構えた。


♪~~♪ ♪~♪ ♪♪~

これって何かの曲?


軽快にハミングできるってことは、獣じゃなさそうだ。 少し安心する。


ガサ ガサ バサッ 

突然、黒い影が茂みから現れた。


・・・

目を凝らして、それを見ようとする。

ゴシゴシゴシ

ハッキリ見えないので目を何度も擦る。


が、それは黒い影のままだ。 輪郭もハッキリせず、まるで、ほつれた黒い毛糸がグルグル動いているようだ。


あっ、100年ぶりに侵入者はっけ~ん。 

黒い影は、嬉しそうにそう言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る