第15話 ◆伯爵家

◆伯爵家


奴隷市場から、町の中心部に向かうにつれて、街並みは清潔で活気のある様をみせる。

人々はに賑やかに行き交い、笑顔が絶えない。


人の世界の光と闇は、どこにでもある。 奴隷として売られた自分は、今はどん底というところだろう。

そして、これから伯爵家という光輝く場所に向かうのだ、


もう馬車に揺られて1時間は経つが、いまだに伯爵家には着かない。

メイクル村からは考えられないほど大きな町だ。


あの男たちに襲われていなければ、今頃はこの町を楽しく散策していただろうと思うととても悔しい。


馬車が門をくぐり、大きな館の前で停まった。 どうやら、ここが伯爵家のようだ。


使用人に馬車から降りるように言われ、ステップに足をかけて下車した。

使用人の後について、館の裏へ回る。 そこには、おそらく使用人達が寝泊りするための宿舎と思われる建物があった。


その中へ入って行く。 玄関を入ってすぐ横にある大きな部屋に入ると、そこで待つように言われた。

部屋には大き目のテーブルと椅子が6脚、花瓶が置いてある台以外は、何もない。


いや、もう一つ壁に、額が掛かっていた。 近づいてよく見ると美しい女性が描かれている。

この質素な部屋に似合わない絵だが、なんでこんな部屋に飾ってあるのだろう。


・・・

・・


部屋に入ってから小一時間が経つが、誰も来ない。 いっそのこと、このまま逃げてしまおうかとも思う。 元々あたしは誰かの所有物ではない。


そんなをこと思っているとドアを開け、使用人が入ってきた。  その手には、なんと男達に奪われた、あたしの鞄とブレスレッドが握られていて驚く。

来る途中、馬車の中で話した事を聞いた使用人が、役人と一緒に男らを捕らえて、真相が判明したらしい。


あたしを競り落とした際に支払ったお金も取り返したので、あたしはもう自由だそうだ。 あたしは、ちょっぴり残念な気がした。

せっかく違う世界に来ているのだから、もう少し冒険してみたいじゃないか。

妖精と仲良くなったり、ドラゴンにも乗れて楽しかったし、サフラのように心の優しい女性にも会えた。 もっともっと冒険がしたい。


あの、もしよろしければ、ここであたしを雇ってくださいませんか。 少しの間でも結構です。 お願いします。

そう頼んでおいて、自分でもびっくりした。


使用人は、伯爵様に許可がいただけるか聞いてくるので、この部屋で待っているように言い残すと再び出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る