第10話 ◆メイクル村

◆メイクル村


顔に冷たいものが触れ、目が覚める。 雨が降ってきたのだ。

シルフはまだ眠っている。 体が小さいから、体にあたる雨粒一滴の衝撃は結構大きかったりするのかなと考える。

なにか最近は、シルフ目線、シルフ思考で考えることが多くなった気がする。


ふと思い出し、後ろを振り返ってみれば、ドラゴンの姿はもうどこにもなかった。

良かった。 動けるくらいに回復したんだ。 そう思う反面、知らないうちにどこかへに行ってしまったのが少し残念な気がした。


シルフが起きないように、そっと両手で包みこんでブラウスと上着の間に挟み、雨が本降りにならないうちに出発する。

黒い雲が沸き上がってくる。 早く雨宿りができそうな場所を見つけた方がよさそうだ。


シルフは全く起きる気配がない。 なるほど、こういう状態の時に襲われて、種族の数を減らしたに違いない。

幸運なことに雨が降らないまま2時間ほど歩き続けると、ようやく視界が開けてきた。 ついに平野に出た。 遥か先には道も見えている。


嬉しくなって自然と鼻歌がでる。 歩幅も大きく力強い。 もうすぐ人に会える  美味しいご飯も食べられるに違いない。

そんなことを考えていると胸の上がモゾモゾする。 どうやらシルフが起きたらしい。


しばらくすると自分で肩の上に這い上がってきた。

よく眠れた?

シルフは答えずにニコニコしている。


どうしてこの時に、すこぶる機嫌がよかったのか、しばらく旅をする間に謎が解けた。 あたしの胸の上は、暖かくて柔らかいので寝心地がバツグンに良かったのだそうだ。

この後もシルフはたびたび、この特等席の利用をねだって来たので、ちょっとだけうざかった。 でもおねだりの仕方が可愛いかったので結局許してしまったが。


シルフに水を飲ませてあげながら、歩きやすくなった街道をひたすら歩く。

やがて、道の両脇には畑や牧場のような場所が多くなって来た。 牧場らしき所には、初めて見る家畜が群れていた。


家畜は食用とか、おそらく毛を刈り取るためのものとかが、自分が暮らしていた世界の経験から、だいたいの見た目で見当がつく。 

ただ、ここの家畜は、少しサイズが大きい。 もしかしたら、人も大きいのかも知れない。 だとしたら、ちょっと嫌だな。


2時間近く歩いたのに周りの景色は少しも変化がない。 お腹も減ってきたので、木陰で休憩を取ることにした。

森にあった小さな緑の実を一つだけ背負ってきたので、それを切る。

ワームが出たらハズレだが、ワームに喰われている実は耳をあてるとゴソゴソ音がする。 今回は確認してから、もいできたのでハズレは無い!


この実は、シルフも大好物なので良いのだけれど、自分のお腹には少し物足りない。 早くお肉が食べたい。

しばらく休憩し、疲れも回復したので出発することにする。 黒雲に追いつかれ、あたりはかなり暗い。


歩き始めて、いくらもしないうちに。

ビューン

突然、上空を凄いスピードでドラゴンが街道の先の方に飛んで行った。 、あっという間に見えなくなる。

あんなに早く飛べるんだ。 やっぱりドラゴンはカッコいい。

と思っていると、またこちらに戻ってきて、あたしたちの前にふわりと降りて来た。


あっ、きみってもしかして、さっきのドラゴン?

ドラゴンは犬のように尾の先をふっている。 体に薬草がついているので間違いはなさそうだ。 頭を撫でてあげると姿勢を低くして、まるで背中に乗れといっているようだ。

シルフがアイコンタクトしてきたので、そっと跨ってみる。 すると翼をひろげ、何回か羽ばたくとふわりと飛び上がった。


おぉっ! あたし、ドラゴンに乗って飛んでる。 すごい、すごい。 思わぬ展開にハイテンションになる。

シルフは自分で飛べるくせに、すぐに追いついてくると、さっそくあたしの胸の中に潜り込んでしまう。


ドラゴンは、あたしたちが目指していた、街道の先へ向かって飛んで行く。 ハハハ、これは楽ちんだぞ。

首にしっかりと抱きつくと、ドラゴンはスピードを上げた。 上空から先をみると遥か先に集落が見えている。

もし、歩いていたらあと1日はかかったかも知れない。 が、わずか10分ほどで、集落の近くまで着いてしまった。


道端に降りるとドラゴンの首と頭を撫で、通じるかわからないがお礼を言う。 するとドラゴンは、首を縦に2回振ると岩山があった方へ飛び去って行った。

降ろしてもらったところから少し歩くと標識が立っていた。 文字は残念ながら読めないが、シルフは分かるようで、「メイクル村」と教えてくれた。

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