第8話 ◆シルフの涙
◆シルフの涙
帰りに道を間違えてしまったのだが、そのおかげで小さな森を見つけた。
そこには幸いなことに、あの緑の実がなっている木々も生えていた。 おそらくここの木は、自然に群生していると思われる。
ちょうどお腹も空いていたので、手ごろなサイズの実を一つ、枝から切り落として食べることにする。
また中からワームが飛び出してこないか、ビクビクしながら実を二つに割る。
サクッ
甘い香りがあたりに広がる。 スプーンがあれば、スイカやメロンのようにくり抜きながら食べられるのにと思う。
そうすることができれば、果汁もゴクゴク飲めるのに。
工作用のカッターは、ここに来てからはすっかり果物ナイフに成り下がっている。
ビューン ガッ!
わっ
二つに割った実をもう少し食べやすくカットしようとしたところに、もの凄い勢いでシルフが飛びこんで来た。
最初は無言で胸をドカドカ叩かれる。 どうやら、おいて行かれた事を相当怒っているようだ。
しばらくするとこんどは泣き始めた。
泣声がピィーピィーとヒヨコみたいで、クスクス笑ってしまい、シルフの怒りの火に油を注いでしまう。
ごめん、ごめん。 何度も起こしたんだけどぐっすり眠ってたからさっ。
ほらっ、これでも飲んで落ち着いて。 緑の実を小さくカットして、シルフに差し出す。
シルフもお腹が空いていたのだろう。 少しおとなしくなる。
ときどき涙目で、こちらをチラチラと見てくる。 罪悪感でひどく心が痛い。
きっと、いままで独りぼっちだったので、自分と出会えたことが本当に嬉しかったのだろう。
お互いお腹がいっぱいになったところで、さっき気になったドラゴンの生態について何か知らないかシルフに尋ねてみた。
驚いたことに大人のドラゴンでも、その大きさは人より少し大きいくらいだという事。 ただし翼を広げた場合は、端から端まで6mくらいになるそうだ。
あとは、雑食でもちろん肉も食べるが、もっぱら小動物(まだそれらしい生き物はみたことが無いが)や魚を好んで食べるらしい。
こちらから手出ししなければ、襲ってくることもなく性質はおとなしいそうだ。 これならば、岩山の谷を抜けるのも大きな問題にはならないだろう。
んっ? でもシルフって、昨日の夜ドラゴンから身を隠すため、フキの葉を乗せてなかったか?
そうシルフに聞くと、ケタケタ笑う。
あれは、鳥の糞よけ。 そういって今度はお腹を抱えて笑う。
さっきは、あんなに泣いていたくせに、今度はこっちが腹が立つ。
食料もあるし、シルフとも合流できたので、今日はこの森で野宿すればよいだろう。
まだ、夜までには随分時間があるので、シルフを肩に乗せ森を探検することにした。
森の中には、小さな水たまりが幾つかあり、水を飲んでいる小さな動物を見つける。
シルフ、あれはなんていう生き物?
あれはバナン、ドラゴンより危険。 毒がある。
一見かわいらしい姿だし、いわゆる毒々しさも感じないが、危険ならしっかり覚えておかねばならない。
でも、おいしいらしい。 獣人が捕まえて食べている。 シルフの追加情報は興味深い。
えっ、そうなの? でも、獣人とあたしと味覚は違うと思うけどな。
でも緑の実だけでは栄養が偏るので、機会があれば捕まえてみようかとも思う。
水たまりの周りにはキノコのようなものも生えていた。 こっちは、赤、青、黄色ともの凄く毒がありそに見える。
シルフ流石に、これは食べられないよね?
黄色のは焼くと美味しい。 食べるか?
そういうや否や、シルフはキノコに向かって口から火を噴いた。
えっ? シルフってドラゴンの子供じゃないよね?
予想外の出来事に目を白黒させていると、こんがり焼けた黄色いキノコをシルフが持ってきた。
香ばしくてジューシーで美味い! うん、シルフこれすごく美味しいよ。
ハフハフしながら、勢い3つもペロリと頂く。
焼き加減に注意した。 普通にやると跡形もなく消し去ってしまう。
シルフの言葉を聞いて、獣人達が一目散に逃げていったことに納得がいった。
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