第5話 ◆緑の実

◆緑の実


ぐぅーーー

また、お腹が鳴った。 もう本当に死にそうだ・・・


セレネ セレネ・・・


遠くでシルフが呼んでいる。

声がする方へ歩いて行くと一番小さなピラミッドの横に、赤い実を付けた木々が規則的に並んでいた。

これは人工的に植えられた、いわゆる果樹園のようなものか?


セレネ、これは食べられる。

シルフは小さな指で赤い実をゆび指し頷いた。


赤い実は、自分の拳より少し小さいくらいの大きさで、甘酸っぱい香りがする。

実を一つもぎとって、服の端でゴシゴシ擦ってから、ガブリと一口頬張る。


ん゛ーーーーっ

すっぱーーーーーっ!


レモンの10倍は酸っぱいし、何より唾液が止まらない。

シルフ、ひどいじゃない! これは食べられないに等しいものだぞ。

期待を裏切られて、シルフに抗議する。


それは栄養があるし、熟した緑色の実はとても甘いのに・・ セレネが最後までよく聞かないで食べた。

シルフが後出しジャンケンのように言うので少々腹が立つ。


辺りの木々を片っ端から見ていくが、緑色の実はなかなか見つからない。 それに普通は赤い実が甘いんじゃないのか?


セレネ、こっちにあった。 早く来い。


シルフの声を辿って、一本の大きな木まで行ってみるとなるほど、確かに緑色の大きな実が生っていた。

これは、すごく大きいな。 スイカのような実を短剣で枝から切り離してみると地面に落としそうになるくらい重い。


さっそく剣で二つに割ってみると、中からとてつもなく大きなワームが出て来た。

キャーー


虫が大嫌いなあたしは、思わず絶叫する。


それはハズレ。 シルフがケタケタ笑う。

妖精って、そんな笑い方をするんだ。


近くにあった、もうひとつの実を取り、恐る恐る割ってみる。

今度は、大丈夫。 中に黄色い果肉がぎっしり詰まっていて、果汁もあふれ出す。

食べやすいサイズにカットし、さっそく頂く。


うまーーーっ

シルフ、これは本当に美味いな。 きみも食べるか?


シルフはニッコリ笑うとひらひらと飛んきて、カットした実の一つに止まり、果汁を飲み始めた。


緑の実をお腹いっぱい食べると、みるみる力が湧いてきた。


出発する前に、持ち運べるサイズの実がないか探してみるが、どれもすごく大きい。

残念だけど、携行には向かない食べ物なので、この実がある場所だけ覚えておくことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る