第2話 ◆妖精

◆妖精


青い星が衛星ならば、この星はいま夜なのかも知れない。

夜が明ければ、次第に暖かくなるはずだ。

体力を温存するには、もう少し暖かい方がよい。


2時間ほど歩いただろうか、草原には目印になる物がないため、少しも進んだ気がしない。


なんでも人は、長時間真っ直ぐに歩くことができないそうだ。

必ずどちらかに少しずつ曲がってしまい、長い距離を歩けば元来たところに戻ることもある。

そんなことが頭をよぎり、疲労と空腹も重なり、へなへなとその場にしゃがみ込む。


喉も乾いた。

このまま水も食べ物にもありつけなければ、自分の命はあと何日もつのだろう。


その場で仰向けに寝転んで、ぼぉっとしていると目の前に、ひらひらと光が飛んで来た。

さっきの妖精だ。

あいつ飛べたのか。


目の前に降りて来た妖精は、予想通りハンカチーフを身に纏っていた。


なんだおまえ、ついてきたのか?

どうせこちらの言っている事は伝わらないだろうと思うが、犬や猫にも話しかけるアレと同じだ。


妖精は、顔の周りをひらひら飛びながら、こっちを見ている。


あたしは、お腹が減ってるんだ。 もう少しお腹が減ったら、おまえを捕まえて食べてしまうかもよ。

クスクス笑いながら、捕まえる仕草をすると、ひらひらと逃げて行く。


妖精が逃げて行く先を見ると、草原の間から幾つかの岩が出ているのが見えた。

景色に変化があったのは、少し嬉しい。


その岩の方に向かって歩いて行くと、一番大きな岩の陰に小さな泉があった。

妖精は、その泉の上をひらひら飛んでから反対側の淵に降り、手のひらで水をすくって飲み始める。


それを見て自分も無性に喉の渇きを覚え、すぐさま泉の中ほどまで入り込み、水をガブガブと飲んだ。

ふぅ~

冷たくて少し甘味を感じるそれを飲むと頭がスッキリした。

疲れも少し取れたような気がする。


もしかしたら、妖精はここを教えてくれたのか?

ねぇ、こっちにおいでよ。 伝わらないと思うが呼んでみる。


すると嬉しそうにクルクルと輪を描きながら、こちらに飛んでくるではないか。

妖精が側まで来たので掌を出してみると、ちゃんとその上に降りてきた。


どお? 元気になった?

突然、妖精が小さな声でそう言った。


えっ、きみ喋れるのか?

突然のこともあり、驚いた自分の声がよほど大きかったのか、妖精は両手で耳を塞ぐ。


ごめんごめん。 ちょっと驚いただけ。 あたしは、セレネ。 もしかして言葉、分かるの?

今度は、普通の声音で優しく語り掛ける。


この水には不思議な力がある。

あなたがここの泉の水を飲んだから、わたしたちの言葉が分かるようになった。

妖精はそう答えるとにっこりと笑った。


へぇー そうだったんだ。 魔法の泉かぁ・・

そうだ、きみ・・名前はあるの?


シルフ、 わたしの名前はシルフよ。

妖精の囀るような言葉は、頭の中で自分が理解できる言葉に変換される。


シルフ・・か・・・ ところで、きみの他にも仲間は居るのか?

妖精は、少し悲しそうな顔をして、首を横に振った。

何かわけがありそうだが、自分としては一刻も早く人の居る町に行かなければならない。

もし妖精がついてくるなら、追々聞けばよいだろう。


泉の水を持っていた鞄に入っていた水筒に汲んだ。

よかった。 これでしばらくは飲み水の心配をしなくて済むだろう。


シルフ、あたしに付いてくる?

出発する前に孤独そうな妖精に聞いてみる。


シルフはコクコクと頷き、一緒に来るという意思を示した。


よし、それじゃあ、出発だ! シルフ、行くぞ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る