二章

初めての帝都

 その後は襲撃もなく、帝都へと一行は急いだ。たまに宿泊した村からの要望で精霊術を

行なうこともあったが、ほとんどは村に立ち寄るのは宿泊と食料の調達のためのみで、マリポーザは寝るとき以外はほとんど馬車を降りることがなかった。


 十日以上馬車に揺られ、体のあちこちが強ばっている。

「うー……お尻痛い……」

 マリポーザが馬車の中で伸びをする。アルトゥーロが窓を覆う布をめくり、外を指差す。

「外を見てみろ」

 言われてマリポーザは布を開けた。


「うわあ……!」

 土のままの道だったものが、いつの間にか石畳になっていた。その街道沿いには、畑のほかに建物がちらほらとあった。民家に混じり、パン屋や生活用品店などの店がある。マリポーザが外に体を出し、よく辺りを見回すと、ほかの馬車も遥か前方や後方に走っているのが見えた。


「あまり身を乗り出さないでくださいね。落ちますよ」

 馬車のすぐ後方を走っていたフェリペが、マリポーザの近くに寄り並走する。

「フェリペさん! 道に石が敷いてありますね。お店も、ほかの馬車もたくさん!」

「だいぶ帝都に近づいて来ましたからね。これから、どんどん賑やかになっていきますよ。今日の日暮れ前には城に着けそうです」

「あの、このまま外を見ていてもかまいませんか?」

 マリポーザは馬車の中を振り返って、アルトゥーロに聞いた。自分が外を見たいばかりに、身を切るような寒い風が馬車に吹き込むことを申し訳なく思う。


「かまわん。暇だ尻が痛いと、愚痴を聞かされるよりは、ましだ」

「そ、そんなには文句言ってませんよ……少しだけです……」

 マリポーザは口の中でもごもごと言い訳をしながらも、アルトゥーロの不器用な優しさに感謝をした。



 フェリペの言う通り、街道を進むほど人や建物、馬車が増えていった。数時間後には、石造りの大きな壁が見えて来た。

 帝都の入り口である巨大な石造りの門の前で、隊列は歩みを止めた。門番の兵士が帝都に入ろうとする人を検問している。そのため、門をくぐる順番を待つ人の長い列ができていた。ダニエル伍長が門番のほうに走り精霊使いの帰還を告げると、門番が並んでいた列を端にどかせ、精霊使い一行を最優先で通す。


 マリポーザはその様子を布を少しめくって隙間からじっと見ていた。「帝都では布を大きく開けて馬車から顔を出さないように」とフェリペに言われていたためだ。

「マエストロ、なんで私たち先に通してもらったんですか?」

「あの中では階級が一番高かったからだろう」

「でもそれだと、並ぶ意味ないですよね。ずるじゃないですか」

「ずるか。そうだな。帝都は、ずるの塊だぞ」

 アルトゥーロは口の端を上げて笑った。その会話が耳に入ったフェリペは苦笑する。マリポーザはアルトゥーロの言っている意味がわからず、小さく首をかしげた。そしてすぐにそのことを忘れ、街を観察するのに夢中になった。

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