帝都に行く理由
「なぜ帝都に来る決心をした? お前は先程すぐ戻ると言ったが、一度帝都に行けば、そう簡単に村には戻って来れないぞ」
戻って来れない。その言葉に涙がまた出そうになったが、マリポーザはぐっとこらえた。
「私、自分のこと、頭がおかしいのかなって思ってたんです。小さい頃から精霊の存在は感じていました。かすかに見えるような気もします。小さな頃は、私だけでなく皆も見えていると思っていたので、精霊がいることを話したけれど、誰も信じてくれませんでした。友達に嘘つき呼ばわりされたり、皆の気を引きたい変わってる子って言われてました。
だから物心がついてからは、私ずっと他の人に言わないようにしてたんです。でも誰にも言わなくても、何かの存在を感じることに変わりはありません。誰も見えないものを見てしまうのは、皆が言うように私の頭がおかしいからかな、と思ってました。
そんなとき、精霊使い様の話を聞きました。おとぎ話の世界だって皆は笑ったけど、私はすごく嬉しかった。精霊を感じるのは私だけじゃないんだって。精霊はやっぱりいるんだって。
初めて精霊使い様を見て、精霊術をこの目で見ることができて、私すごく感動しました。精霊を見えるだけでなく、もっとずっとすごい力を持ってる人がこの世界にいるなんて。その精霊使い様に弟子にしてもらえるなんて、奇跡が起きたとしか思えません」
マリポーザの満面の笑顔に、アルトゥーロは心底驚いたように目をしばたたかせた。
「その割には、ずいぶん迷っていたじゃないか」
「私は精霊をはっきり見えもしないし、そんなすごいことが自分にできるのか、すごく不安だったので。村から出たこともないし……。今でも不安ですけど。
でも、精霊使い様に誘っていただけるなんて、こんな機会もう一生ないし、きっと逃したら、ずっと後悔すると思うんです。友達には反対されたんですけど……」
マリポーザの話を聞きながら、アルトゥーロはどこか遠くを見る目をしていた。
「俺が精霊術の研究を始めたのは六、七歳のときだった」
「そんなに早くから?」
「俺も頭がおかしいと周りに言われていた。まあそれは今でも言われるがな。だが俺は精霊の存在を確信していたから、一人で研究を始めたんだ。それから三十年以上、ずっと研究を続けている。まだわからないことだらけだ。
ここ最近は新皇帝の引き立てがあって、研究が多少やりやすくはなったが、実際三十年前と環境はそんなに変わらないとも言える。精霊の存在を信じない奴なんて沢山いる。自分たちに見えないものは、いないと思いたいのさ。人間は所詮信じたいもののみを信じる生き物だ。
精霊術をもてはやす奴は、ほとんどが皇帝に媚を売っているだけの輩だ。それか珍しい見せ物かなにかと勘違いしている。
だから村にいようが帝都にいようが、そういう意味ではそんなに大差はない」
「でも、マエストロがいます」
マリポーザはマエストロをまっすぐ見つめた。
「帝都ではマエストロの下で精霊術の勉強ができます。これは大きな違いです」
「そうか」
アルトゥーロは眩しそうに目をそらした。
「そうかもな」
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