第2話
午後6時48分。
毎日決まった時間にバスが着く。
始発場所の駅前では大勢の人が乗っていたバスも、この停留所まで来ると乗っているのはほんの僅か。
この先はこじんまりとした山があるだけで、民家はほとんどなく、この小さな停留所で降りるのも、いつも彼だけだ。
月明かりがふんわり落ちてくる夜。
私は今日も寂れたバス停で彼を待つ。
空に浮かぶまん丸い小さな月を見上げてみる。垂れ流れるメロディが夜をつくる。
夏の余韻に浸っていると思ったら、いつの間にかもうそこに秋は座り込んでいた。
涼しくなった空気を肺に含み、近づく空に小さく息を吐くと、一瞬夜空が滲んで見えた。
遠くから聞こえてくる大型の車の音。
毎日聞いていると分かる。バスの音だ。
ブロロロロロ・・・・鈍いタイヤの音とブレーキ音が響き、ドアが開く音と機械で喋る女の人の声。
毎日聞いていても、ドアの開く音と大きなエンジン音で何と喋っているのかうまく聞き取れない。
私の顔を見て、彼_________
プシュゥと音を立ててバスのドアが閉まってから、彼がゆっくりと手を差し出す。
「おかえりなさい」
車内にいた彼の手は少し暖かく、私の手を優しく包む。
秋は、好き。
秋は、なんだか寂しいから私たちを見ても何も言わない。夕暮れ時はもう日が落ちて暗くなっているから、手を繋いでも誰にも見つからない。
人影なんて全然ないけれど、それでも私も彼も人目を気にする癖は直らない。
「ただいま」
温かい声で彼が告げる。
頬に少し触れる、彼の唇。
「...おかえりなさい」
バスのライトも遠くに消え、小さな街灯だけが照らす停留所の下で私達は頬を摺りあわせる。
そして手を握ったままゆっくりと、家に帰る。
真っ暗な道も、あなたと一緒なら怖くない。
闇が、私たちを包み、染める。
それでも大丈夫。
ここには、貴方が居るから。
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