手紙
海翔
手紙
私は手紙というものが嫌いだ。
「手紙には心がこもっていてメール等よりずっと良い。現代人は手紙の大切さを思い出すべきだ」
なんて言うけれど、私はそうは思えない。『心がこもっている』だなんて、裏を返せば本音がダダ漏れになるということではないのか?
不幸の手紙もラブレターも同じ。相手に自分勝手な気持ちをぶつけるエゴイズムの塊を、私はどうしても好きになれない。
だから、今日のように授業で『日頃の感謝やしばらく会っていない人に手紙を書きましょう』という課題が出ると心底うんざりしてしまうのだ。
「どうしよぉ!○○先パイに手紙書いちゃおっかなぁ!?」
「俺いっつも読んでるマンガの作者にファンレター書こっと」
「んー、県外のおばあちゃんに書こうかしら」
皆、思い思いに筆をとり言葉を書き連ねる。私はただ1人真っ白な便箋の前でじっと座っていた。
私は手紙が嫌いだ。面と向かって言われるよりも心に刺さることがあるのだから。
「あら?まだ何も書いていないのね。どうしたの?送り先が決まらない?」
時間も半分が過ぎた頃、先生が声をかけてきた。書いた手紙は誰にも読ませずに出すことが出来るので、このままやり過ごすことも考えていたのだが、案の定見つかってしまった。
「去年はちゃんと書いていたようだけど...また同じ人宛でもいいのよ?」
そう、私は手紙が嫌いだ。けれど、去年の同じ授業では手紙をきちんと書いていた。
「でも、そうね...あれなら未来の自分へ、でもいいわ。取り敢えず何かは書きなさいね?」
先生はそう言い残して他の人のところへ行った。私はまた、真っ白な便箋の前でただ座っていた。
私が手紙を嫌いになったのは、ほんの数ヶ月前。それまでは嫌いどころか、むしろ文通というものが好きだったくらいだ。
私には付き合っている人がいた。所謂遠距離恋愛で、メールや電話もしていたけれど、その中で手紙はお互いの字を交換できるので特別だった。しかし、ある時から手紙の返事はおろか、メールも電話もなくなった。
その人は、受験の時期だったので「忙しいんだな」位にしか思っていなかった。
でもある日、本当に偶然にその人のSNSを見てしまい、そこには私ではない恋人と仲良さそうにしていることが見て取れた。
暫くはそんなこと信じたくなかったし、認めたくはなかった。けれどこのまま、うやむやにしてしまうのも嫌だった。
だから私は久しぶりに電話をした。その人は全て話してくれたし、謝ってくれた。
私の所に帰ってきてくれると思った。浮気をされても尚、私はその人が好きだったのだ。
けれど、現実はそんなに甘くはなくて、浮気を知ってから2、3カ月後に、私はその人にとって、居ても居なくてもどうでもいいモノになってしまっていた。
私は、最後に手紙を書いた。ありったけの呪いを込めて。その返事も反応も終ぞ来ることは無かったけれど。
それから私は手紙が嫌いになった。最後の手紙、それには皮肉たっぷりだけど私の悲痛な叫びもしっかり入っていたはずだ。心が伝わるはずの手紙も、興味が失せた人から来たらただの文字の羅列に過ぎない。
いくら心を込めたって。伝えたい相手がそれを感じ取るだけの関心を私に向けていなければ意味がない。
好きの反対は無関心。それが、とても苦しかったのだ。
しかし、私は授業を放棄するほどの度胸もない。だから、嫌いな手紙を書き始めた。
キーンコーンカーンコーン
「はい、それじゃあ今日書いた手紙はちゃんと出してくださいねー」
「やっだぁ!先パイにどうやって渡そー!?」
「切手買ってこなきゃだー、学校で用意してくれりゃ良いのにな」
今日の授業が終わり、皆帰り支度を始める。私も早く大嫌いな手紙を出そう。
持っているのもなんだか気持ちが悪いから。
家の近くに流れる川
夕日を反射しキラキラしている
水はキレイとは言い難いけれど
それでも私は川を見るのが好きだった
川は海に繋がっているから
海は大いなる母
全てが還る場所
「...手紙、終わらせなきゃ」
脱いで揃えた靴の上に、今日書いた手紙を置く。
風で飛んでしまわないように手頃な石で抑えておく。
そして私は、大嫌いな手紙から逃げる様に
キラキラと光る世界へ飛び立った
バシャンッ
手紙 海翔 @kaito_0525
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます