ブラッド・アイランド

1人目

　大きなに浮かぶ小さな孤島「三つ葉島」。1950年代に本土から移ってきた人々が、大きな大木と海から流れ着いてきた大きな岩だらけの、決して人の住める環境では無かった島を大きく発展させていった。幸いなことに島には豊富な植物が植えられていた。移り住んだ人々はそれらを活かして、麻の布や本土で使う椅子などの木工製品を作って生計を立てていた。

　あれから60年以上が経過した。島の人々はだんだん数を減らしていき、島を支える若い人間は数少ない存在となったのである。そんな島に未来を頑張って生きようとする少年がいた。

「じゃあいってきまーす。」

　彼の名前は「まさる」である。まさるは島にある、本土との分校である高校に通っていた。全校生徒はたったの24人、そのうちまさるとの同級生は、なんとわずか5人だった。

「いってらっしゃーい、隣のけんご君いないから1人で行きなね〜。」

「ん、分かった。」

　何気ない母親との会話にも、まさるは苛立ちを覚えていた。そんなことくらい知ってる。けんごが起きてたら、家の前に都会で1回だけ聞いたことのある電車のガード下のような大音量で、まさるを玄関に呼びに来るはずなのに、けんごは今本土で親戚の集まりに行ってるからしばらく帰ってこない。

　まさるは母親に対しての年相応な不満を覚えつつも、母親の気遣いへの感謝を胸にしまい、自転車にまたがって走り出した。数分くらい自転車を走らせていると、島で数少ない交差点で昔から同じ学校の「ゆみ」に出会った。ゆみはクラス一の秀才で、清楚な見た目をしていることから学校でアイドルのような扱いを受けていた。

「おはよう、まさる君。けんご君は？」

「お、おはようゆみさん…。あいつは今本土だから来ない…と思う。」

　まさるの動悸は、自転車をフルパワーで漕いだ時よりも早くなっていた。昔からの知り合いとただ会話しているだけなのに、なぜなのかは分からない。でもまさるの胸の高まりはだんだん早くなっていく。

「そっか。そういえば普通に呼び捨てでもいいのに、なんで今もさん付けなの？」

「えっ？えぇー…と。やっぱり数少ない同級生だから丁寧に接したくて…。」

　まさるは呼吸を整えながら、無理やり笑顔を作って答えた。するとゆみは自然な笑顔でこう返した。

「そうなんだ。まさるくんって優しい人だね、そういう人好きだよ。」

　この返しにまさるの気持ちはもう限界だった。信号が変わった瞬間、まさるは全速力で自転車を飛ばして走り去ってしまった。ゆみは不思議な顔をしながら、走り去っていくまさるの背中を見て呟いた。

「まさるくん…、道違うよ？」

　まさるは全速力で自転車を飛ばして、ゆみの笑顔が見れたことを喜びながら、自分の胸の高まりを無理やり心の箱に押し込むためにペダルを漕ぎ続けた。しばらく走り続けてようやく遠回りで学校に向かう途中、ふと本土とのシャトル便が航行している港を見ると、そこでは今までの島に来た人達とは、明らかに異なる異様な光景があった。

　横に長い箱を持って船から出てきた黒い服の男達と、何かを手に抱えながら大きな素振りで泣く黒い服の女の人。まさるは胸に、嫌な感覚を覚えたが、学校に行かないといけない時間が迫っていた為、そんなことはすぐに忘れてしまった。あれは一体なんだったんだろうか…？

　続く