第8話供養
「あのさ、胡桃先生は私たちが困ってたから助けようとして人間になったんだよね」私は言った。
「うん。それで代わりに山下先生が人形になっちゃったのかな。」と竹中さん。
「じゃあ逆のことをすればいいんじゃないかな。私たちが山下先生に戻って欲しいって強く願うの。」と言ってみる。
「それは無理よ。」とやけに透き通った声が降ってきた。胡桃先生が立っていた。やっぱり彼女には影がなかった。
「私は二人が困っていたから助けようとした。その目的を果たせるまで元に戻らないの。」先生は続ける。
「それはね、あなたたちが今一番不安定な時期にいるから助けてあげようとしたの。だって自殺しかねない雰囲気だったもの。」
「い、いくらなんでも自殺なんかしません!」私がいうと竹中さんもそうですよ、と言った。
「そう?私はね、二人に仲良くして欲しいのよ。だって二人とも大切な私の友達だもの。私にはわかる。二人ともとても辛かったのよ。だからこれまでのことを水に流して、また仲良くできないかしら。そしたら戻るわ。」
そんなの、ずるい。私たちは顔を見合わせた。
「ごめん。さくらちゃんも嫌がってるとかそれは…言いすぎた。」先に私が謝った。
「私も、ごめん。私、また一人になるんじゃないかって必死だった。もう桃子ちゃんとさくらちゃんは仲がいいからもっとさくらちゃんと仲良くならないとだめだと思ってた。全然桃子ちゃんの気持ちを考えてなかった。大人気なかった。本当に、ごめん。」
と竹中さん。
じゃあ、と私が手を出した。
竹中さんも出して握手した。
「あのさ、」と私が言う。
「何?」
「これからは真里ちゃんって呼んでいい?」
竹中さんは一瞬びっくりした顔をしてから頷いた。
「もちろんだよ!」
気づいたら胡桃先生はリナちゃんの人形に戻っていてベンチに山下先生が横たわっていた。リナちゃんは笑っているような気がした。
その週の日曜日、私たちはリナちゃんを供養しに近くの寺に行った。
最後に、私はリナちゃんに言った。
「今まで本当に、ありがとう。小さい頃は一緒に遊んでくれて、今辛い時に助けに来てくれて、立ち直らせてくれて。本当に私はリナちゃんに勇気づけられたよ。私は、これからも頑張って生きるから。精いっぱい頑張るから。」
冬なのに何故か暖かい、優しい風が吹いていた。リナちゃんが頑張って、というのが聞こえた気がした。
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