俺の才能の賞味期限 2017.08.14

ちびまるフォイ

見つけた! 俺の才能!

朝、顔を洗い終わると手のひらに何か書いてあった。



才能賞味期限

2017.08.14



「……なんだこれ?」


書いた覚えもないし、痕をつけられた覚えもない。


「才能の賞味期限って……俺の才能なのか!?」


いったいどの才能だ。


今書いている小説の才能だろうか。

昔コンクールで銅賞を取った絵の才能か。

実は女の子にモテる才能だったりして。


どれでもいい。

問題なのはそれがもう尽きるということ。


「まずいぞ!! このままじゃ才能が枯れてしまう!

 才能の賞味期限が残っている今のうちに何か残さないと!!」


必死に今書いている小説を書き上げてコンテストに応募した。

戻って来た通知には「落選」とデカデカと書かれていた。


「ちくしょぉぉぉ!! この才能じゃないのか!!」


賞味期限が近づく才能を持っているのなら片鱗があるはず。

少なくとも小説の才能はないらしい。


「絵だ! 絵を描いてみよう! きっと才能があるはず!!」


ペンを筆に持ち替えて思いつくままに絵を描いて応募した。

我ながらいい出来になったと思う。



戻って来た通知には「ぼく、落書きを応募しちゃだめだよ」と

3歳児に向けた優しい言葉で諭すような文章が戻って来た。


「こっちもだめかよ!? この才能もないのか!?」


小学生のコンクールはなんだったのか。

今こうしている間にも才能は枯れて行ってしまう。


どうやら、俺に残された才能は女にモテるという――



「近づかないで! あんたと付き合うなんてムリ!!」



女性にビンタされて、モテる才能も絶望的だと気が付いた。

たしかに今まで一度もモテたことはないけどさ。


「うう……それじゃなんの才能なんだよぉ……」


道路にひざをついて思い悩む。

冷たいコンクリートが賞味期限の書かれた手のひらを冷やす。


「あ! そうだ! もしかして、今はまだやってない才能があるのかも!」


自分にはまだ隠れた才能があるにちがいない。

このまま才能を枯らしてしまうのはもったいない。


好き嫌いはともかく多岐にわたる才能探しがはじまった。



音楽、お笑い、サラリーマン

ゲーム、素潜り、手芸……などなど。



「だ、だめだ!! ぜんぜん間に合わない!

 世界にはこんなにも才能を発揮する場があったなんて!!」


たくさんの経験を通して才能があるかないかを見極めていったが

やればやるほど才能が隠れてそうなものが見つかってキリがない。


これじゃ才能を見つけるのに時間がかかりすぎて、才能が枯れてしまう。


「いったいどうすれば……」


ネットで次の才能探しは何をしようか探していると、

ひとりの人物に行き当たった。


「才能を見つける才能を持つ男……!? これだ!!!」


男のもとへ迷わず向かった。



「ようこそ、マダム・サイノーの館へ。自分の才能をお探しですか?」


「男なのにマダムなんですね」


「あなたはお笑いの才能はないですね。

 そんなありきたりのツッコミをするくらいですから」


「さすがです! その通り!!」


思わずサイノーの力に手をたたいた。これは信頼できそうだ。


「で、あなたもこのサイノーに才能を調べてもらいに来たんですか?」


「はい! そうなんです! お願いします!」


「よろしい。では、私に20歳以下の美少女とディズニーランドのペア券を献上するのです」


「え? それ必要なんですか?」


「私の才能を発揮するには不可欠です」


男の求める美少女とペア券をなんとか準備すると、

サイノーはでかい水晶をテーブルに置いて手をかざした。


「では調べましょう。あなたの才能は……」


「お、俺の才能は……」


ごくり。

自分で生唾を飲み込む音が聞こえる。



「あなたの才能は……


 "自分に才能があると思い込んで、先の見えない努力ができる才能"です!!


 すばらしい! この才能があれば努力し続けることができます!」




「マダム・サイノー……今日って何日ですか?」


「ああ、ちょうど8月14日になったところですよ」


「……やっぱりね」



俺はもう才能を見つけるために努力する気が起きなくなった。

きっかり8月14日0時のことだった。

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