第161話

 この素直な気持ちを、自らに向けたならば、こんなにも偽人に魂を喰い尽くされ、荒廃した世界にはならなかった筈なのに……やはり私達は消えるべきなのだろう。


 これ以上、この世界にしがみついて私達は何をしたいのか……そして、何を残そうとしているのか。


 役員フロアの広大な窓から眺め、その先に佇む深紅に染まった太陽に私は問いかけた……答えが返ってくる事などないとわかっていながら、何処か意味深に沈み始める、この銀河系の源を私は眺め続けた。


 やがて現れる、月が支配する世界に変わってゆくまで……。




 技術の進化とは、愛人形の為に存在する言葉なのか。


 私の目の前ではしゃぎ、笑っている愛人形達は「私」よりも人間だった。


 それぞれの顔立ちも、肌の質感も、これまでを「生きてきた」年月を加味されて、先代より進歩、変化しているのがわかる。


 万希子さんはブレイクしたのを期に、自慢の長い黒髪をたおやかな栗色に染め、少し妖艶な雰囲気を全身に纏った。


 金髪のキャロルアンはその逆に、緩やかにウェーブした髪を黒色に染め、ストレートに加工してクォーターらしからぬ淑やかな女を醸し出す。


 お団子スタイルだったモカ、モコは茶髪にわずかに赤味を足し、髪をおろしてちょっぴり大人っぽさを演出……雪と流花は、ショートの髪のまま、雪は赤味を、流花は青味を微妙な配合で髪色に施した。


 詩織は心機一転、ばっさりとショートヘアに……明るいブラウン色の髪だったアリスは、もっとアリスらしくゴールドの色味を大胆に加えた。


 葵は、甘いチョコレート色の髪を先代の万希子さんよりも更に漆黒の黒で染め直し、より日本的で、あらゆる欲望を受け入れる、従順な少女の側面に磨きをかけた……躰つきも、絶妙なふくよかさを増して……。




「ふふふ……」


 見事なまでに完璧なる人間。


 こうして、第4世代のヴィーラヴはイメージを一新した。


 生まれ変わるのを期に、私からの希望もいくつかは取り入れられている……それを「あっさり」と実現し、微妙なアレンジまで施してしまうミネルヴァの能力……。


「んんっ……別に難しい事してないよ」


 事もなげなミネルヴァの返事……確かに、彼の能力からすれば、愛人形の容姿や性格の変化など「ちょっとした」作業に過ぎないのだろう。


 でも、あたかも自らの意思で雰囲気を変化させたかの様にサウスのリビングで互いにイメージチェンジした姿を笑い声を交えながら褒め合っている愛人形達の光景を見ていると、今は「素直」にミネルヴァに感謝したい……。

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