第160話

 涙を振り払い、悲しみの感情を腹の中に閉じ込め、詩織は声を絞り出し、頭を下げた……。


「ありがとうございました……」


 他のメンバー全員が立ち上がり、詩織に続いた。


 メディアの卑猥な「光」が、おびただしく愛人形達に放たれ続ける……。




 完璧なる……勝利……。


 聞けば、シフォン陣営の会見は、閑散としていたらしい……。


 そう……これでいい……。


 記者会見の翌日、万希子さんの後を追う様に、愛人形達は第4世代型になるべく、旅立った……。


 しばしのお別れ……しかし、しばらく待てば新しく生まれ変わった愛人形達が私の前に姿を現し、再び私の愛を受け入れる……。


 湧き上がる興奮を抑えられない……早く、進化した愛人形に逢いたい……私の細胞が、血が、筋肉が、過剰な熱を発する……。




 それにしても、人間とは不思議なものだ。


 あの会見以降、ヴィーラヴメンバーの中では最もセールスが芳しくなかった筈の万希子さん関連のグッズ、写真集、ブルーレイなどが突如、堰を切った様に売れ始める……。


 葵やアリス、モカ、モコ、キャロルアンがどうしてもビジュアル等で目立つ為、地味でおとなしい印象に映るヴィーラヴ内での万希子さん……だが、美しく艶やかな長い髪、透き通る白い肌、澄んだ瞳にあの「涙」を含ませ、上品で細身の躰……。


 女優としても活躍できる「それら」は万希子さんにしかない「武器」であり、ソロでも十二分に活動は可能……人気の出る素地はあったのだ……。


 今回の「茶番」で、ようやく万希子さんの魅力と人の良さが広く認知され、優しくしなやかで綺麗なお姉さん……というヴィーラヴ内や世間においてのポジションを確立、不動のものとしてゆく……。


 この「現象」は何なのか……。


 まだ人間にも、心の何処かに人を慈しむ純粋な魂の欠片が残っているからなのか……それとも、他人のちょっとした不幸に「それ見た事か」と溜飲を下げ、得られる偽りの快楽か。


 あるいは、盲目的に世間の流行にただ流されている故の、無意識な惰性行為なのか。


 おそらくは……後者なのだろう。


 万希子さんの相乗効果により、これまでに発売されたシングル、アルバム、関連商品のセールスが復活しているのを鑑みると、その確信はより深まってゆく……。


 ヴァーチャルなネットの世界でも、万希子さんの容態を心配する書き込みや、会見で涙を流すヴィーラヴの姿に、グループの絆を感じ、感動しました……などという文面が踊る。

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