第153話

「放置って……大胆ね……」


「そうかなぁ……確たる後処理の方法も構築できずに、貪り、突っ走ってきた人間の方がよっぽど大胆で、乱暴だよ……」


「だから、私達は消滅すべきという理由なのね……」


「そうかもしれないね……また暴論じみた事言うけど、死んだ後の事なんて、どうでもいいでしょ……悩み、考えたって何もできないんだから……」


「わかっているわ……わかっているけれど、悩むのが人間なのよ……」


「だって舞ちゃん、地球の寿命は定説ではあと50億年も残っているんだよ……さっきの原子力の問題にしたって、放射能が無害化するのに要する期間はざっくり見積もって10万年と仮定しても、50億年の内の10万年……人間の寿命年数からすれば、天文学的な期間だよ。ボクが言わんとしている事はわかるよね……この美しい奇跡に満ちた地球に、住まわせてもらっているちっぽけな人間如きが、地球環境を守るだの、未来の為になんたらかんたらほざいて、将来を心配したって、意味なんてないよ……ボクの立場から言わせてもらえば、それこそ傲慢で欺瞞だよ……」


「…………」


「50億年の間に何が起きるかわからないんだよ。大規模な地殻変動や、温かくなったり冷えたり、巨大隕石が衝突するかもしれない……または、とんでも展開で、異星人が地球を発見し、住みつき、人間なんかよりも遥かに高度で安全な文明を築く可能性だってある……これから未来永劫、人間が地球に生存し続けるなんて考えがボクからすれば滑稽だね。本当に人間がこの地球、この世界を守りたいなら、人間は今を正しく生きる事だよ……曇りのない心と魂を次の世代に繋げてゆく。たったそれだけで良かったのに……残念ながら気づくのが遅かったね。消滅が確定した未来に向かっている今となってはね」


「じゃあ、彼女……いえ、愛人形達は正しく生きるに足り得る存在という事……?」


「そう思ったから舞ちゃんはこっち側に来た……礼子が語った計画どうこうよりも、感じてしまったんだね……彼女達の愛にね。確かに彼女達は人間じゃない……人形、擬体、あるいはロボット……礼子はこう言うと怒るけど実際、精巧な部品と繊細な繊維素材に最先端のエレクトロニクスとAIと精密な生産技術が集約された人間を超える人間だよ。その事は実際に近くにいて騙された舞ちゃんが良く体感してるよね……しかもそれは、絶えず更新可能な肉体と魂。人間が渇望していた不老不死の概念が、アイドールにはあり、実際に存在し、誰も真実に気づかない……」

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