第144話
愛人形達は常に人間であろうとする……生身の人間よりも清らかで、美しい魂であり続けようとする。そこに、私欲など介在しない……。
個々の性格は、この汚い世界に適応させるが為にミネルヴァが創り出した「装飾」に過ぎない。だからこそ、純真無垢なヴィーラヴから紡がれる歌声には真の魂が宿っている……。
「魂だとっ……」
「ええ……そうよ……」
「何でだよっ……!」
「嘘を重ねたからよ……早い段階で真実を語っていれば良かったのに……」
「…………」
「でも、もう遅いわね……結果的にあなたを守っていた人達は、いなくなってしまったのだから。人を見下し、歌う喜びを忘れ、頂点に安住する事に己の全てを注ぎ込み、怠惰で傲慢で他人を、自身をも冒涜する愚かな人生になってしまった……」
少し弱気になったシフォンが、眼を伏せる……。
「もう、終わりにしたらどうかしら……」
「な、何を終わりにするんだよ……」
「嫌なんでしょ……今の自分が……」
「自分が……嫌……?」
「私達の魂を震わせられなくなってしまったのだから、あなたの役目は終わったのよ……もう頂点に固執して偽人に操られる必要もないもの……自分の心を、魂を、嘘で築き上げた幻想から解放するのよ。このまま死ぬ前に……」
若くして、生涯に何の不安要素もない程に余りある資産を手に入れたシフォン……これからの人生を思うがままに生きてゆける特権を得た数少ない人種。この世界にしがみつく必要性も、私の愛人形の存在で皆無になった……。
華やかな舞台を降りて、ゆっくりと心と魂を解きほぐすがいい……。
私の愛人形が、シフォンの後継者となる……。
純粋無垢な魂と笑顔で……。
「ふっ、何が楽になりなさいだよ……ふざけるな。私はこれからもこの世界の頂点であり、神なんだよ……」
あがくシフォンだが、眼力は弱々しい……。
とどめを刺す頃合いか……。
シフォンの艶やかな髪を私は掻き上げ、華奢な耳に唇を近づけ、魂にまで達する様に力強く、そして甘く囁いた……。
「嘘は駄目よ……私の言っている意味、わかるわよね……シフォン、いいえ……」
「橋本
「ひっ……」
彼女の本名だ……。
必死に隠し、守っていた本当の自分の姿を、呆気なく私から語られた明子は一瞬、奇声を発し、全身が白くなった……。
とろり……再び甘い蜜が、もっと甘い蜜が明子から滴る……。
生年月日……
年齢……
出身地……
家族構成……
出身校……
恋愛遍歴……
総資産……
私は明子の全てを耳元で綴った……。
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