第135話

「そんな事を言っては駄目ですシフォンさん」


「るっせぇんだよっ!……どいつもこいつも使えねぇんだよっ……テメェもテメェも、テメェもっ、辞めたきゃ辞めろよっ!……けど、もうこの業界で仕事できねぇからなっ……圧力かけて辞めたテメェらなんかに仕事ひとつも回してやるもんかっ……!」


 起き上がったマネージャーの諌めも聞かず、シフォンは他のスタッフ達に脅しにも近い毒を吐く。




「マネージャー……今までお世話になりました」


 助けに駆け寄っていた男性スタッフが呟いたのを合図にひとり、またひとりとスタジオを出てゆくスタッフ達……彼らの「限界点」を超えたのだろう……女性スタイリストの決心が引き金となり、シフォンを支えていた「柱」が呆気なく抜けてゆく……。


 その人柄故か、マネージャーに一礼、もしくは深く頭を下げ、シフォンを突き刺す様に睨みつけて去ってゆく姿は、どのスタッフにも共通するものだった。


 マネージャーには人望がありながら、深く恨まれていたシフォン……床に散乱する衣装、メイク道具、資料……全てを失おうとしている人間の虚しい光景……。


 この時、愛人形達は何をしていたのか……。


 シフォンの「毒」にも耳を傾ける事もなく、静かに帰り仕度を整えていた……。


 新人アイドルグループが悲鳴を上げた時は、万希子さんやキャロルアン、アリスがスタッフに混じり彼女達を気遣った……。


 詩織に至っては「また始まったか」と、シフォンの挑発にも呆れ笑っていた……。


 私はてっきり、アリスがシフォンとやり合うのではないか……などと心配しながらも、心の何処かで期待もした……。


 相手にするのも、会話を交わす価値もない「人間」……アリスは思っていたのだろう……。




 危険なのは私達……「人間」の側なのだ……。


 礼子さんに「構うな」と言われているのに、私達のスタッフの何人かはシフォンを睨み、舌打ちし、今にも飛びかかろうとしている者もいる……。




「おいっマネージャーっ……雑魚スタッフの補充しとけよっ……!」


「…………」


「聞こえてんのかよっ……明日までに用意しとけよっ……」


 人間を「物」の様に言い棄て、パイプ椅子に荒々しくシフォンは座ると、その歪んだ瞳を怯える新人アイドルに向けた……。


「何だよっ……ビビリやがって底辺アイドルがっ……さっさと私の前から消えろっ、うぜぇ……」


 シフォンの声と形相に、ついに涙を流したアイドル達を万希子さん達が優しい言葉をかけながら体を起こし、シフォンから安全な所まで遠ざけ、彼女達のスタッフに預け、新人アイドル達は足早にスタジオを後にした……。


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