第128話

 必死に、外観をお洒落に煌びやかに着飾っても、その内部で行われている行為は、輝きや華やかさとは遠くかけ離れたものなのだ……。


 そんな彼らの希望、欲、苦悩、魂を貪欲に吸い取り繁殖し続け、輝きを放つガラスで覆われた塔達。


 綺麗な輝きは、吸い取られた者達の悲鳴が集約された嘆きの光なのか……。


 美しい……ロマンティックなどと、あたかも芸術品や愛の道具として嘆きの光を利用する……その真実など考えもせずに……。


 翻って、私がいるこの高層マンションから放たれる光は何であるのか……ここに住む者の何人かは、嘆き放つ光の塔の支配者かもしれない。また、経済の幹から実る果実を得ている者もいるだろう……また、数十年に及ぶ債務を背負い、家族の住まいを得た者も住み、生きているのだろう……。


 では……私は何なのか……。


 最上階を占有し、愛人形達と夜景を楽しんでいる私は何者なのか……。




 単なる人間なのだ……。


 愛人形達が私の傍にいてくれる……それだけで自身が満たされている……そんな人間に過ぎない。


 出世やカネに執着などない……礼子さんはそれらを与えてくれるが、もう私の生きる源にはならない。


 いずれ皆……死ぬ……。


 今の私には、礼子さんやミネルヴァから提示された「死」という終着点がはっきりと見えている……故に、世俗的な私欲が纏わりつく事などない……。


 煌めく街灯りは、全てが終わる前の前奏曲なのだ。






 愛人形達と暮らし始めてから程なく、5枚目のシングルが発売、配信され、ミリオン超えにも何も思うところはなくなった……。


 瞬く間に麗しく濃密な愛人形達との生活も、3ヶ月が過ぎた……。


 間近には、6枚目のシングル発売、配信が迫る。


 発売、配信後、愛人形達は「死」を迎え、生まれ替わる……私があの美しい世界を漂っていた時、愛人形達は第3世代から第4世代に進化した……。


 そして第5世代への移行……。




「ありがとう……」


 そして……


「さようなら……」


 第5世代は今よりもきっと人間らしく、私を愛してくれるだろう……第5世代の愛人形達は忙しくなる……セカンドアルバムの制作、リリースとまだ秘密だが、ファーストライブツアーの計画が水面下で進行中であり、効果的な発表のタイミングを伺っている……。




「うう〜ん……」


 設計、製造思考と、内部精密回路や素材技術などが飛躍的に向上するとされる第6世代を、ライブツアーの前か後か、どちらに投入しようかとミネルヴァから再三にメールで問われていた……。

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