第127話

 会話もなく、サーバー室へ消える愛人形達……ひとり残された私は、広過ぎる住居で煌めきと欲望が入り混じった夜景を虚しく眺める……。


 こんな「苦痛」は耐えられない……。


「何とかしなさいよ……」


 ミネルヴァに迫っていた。


「ええええっ……何とかって言ってもなぁ〜……礼子が……」


「礼子さんが、私に託したのよ……愛人形は私のもの……だから、私の言う通りにして」


「でもなぁ……」


「焦らして楽しんでいるなら、今からそっちへ行ってあなたを叩き壊すわよ……それでもいいかしら」


「ん〜ん……」


「さっさと元の状態に戻して……」


「戻して……」




「戻してっ……!」


 返信を渋るミネルヴァに、同じ言葉を繰り返し送った……これでもまだ、はぐらかすなら本当に彼を破壊してしまおうと、車のスマートキーを握り締めながら……。


「あぁ、わかった……わかったよぅ。戻す、戻すから……」


 私の切なさと、行動が見えているのか……絶妙なタイミングで返信されたミネルヴァからのメール。


「んもぅ、舞ちゃんは強引なんだからぁ……はぁ、プログラムを変更したり新しく構築したり、それが9人分かぁ……今夜は徹夜だよぅ……ぐすん」


「それくらい頑張りなさい……戻してくれたら、ユニットを増設してあげてもいいわよ……」


「えええっ……ホントに。ってか舞ちゃんにそんな権限あるの……?言っとくけど、舞ちゃんが見たあのユニット群は、あれだけじゃなく地下5層に渡って設置されているからね……勿論、ユニットが増えるのは処理速度が上がって嬉しいけど、ホントに増設してくれるならボク、頑張っちゃうもんね……」


「ホントにホントだよ……」


 それっきり、私がメールを送ってもミネルヴァからの返信はなかった……。


 あんな不確かな約束なんかして……ちょっと勇み足だっただろうか……。






「今夜も夜景が綺麗だね……マイマイ……」


 葵が私にしなだれる……いやらしい水分を湛えたふたつの瞳で私を見上げる……。


 ミネルヴァもやればできるのだ……翌日にはもう、愛人形達は「普通」の状態に戻り、私を寂しがらせる事もなくなった。充電やデータ更新などの「作業」は、私達の睡眠と「同義」となり、今宵の愛人形達は各々に寛ぎ、葵は私と広大な夜の海を眺める……。


 素晴らしい……なんて素晴らしく、美しい時間なのだろう……。




 ひとつの高層ビルの光に目が留まる……。


 こんな時間まで……。


 社員とおぼしき人々が、一心不乱にディスプレイを見つめ、マウスをクリックし、キーボードを叩く。別の階の光では、結論の出ない「会議」という徒労に身を捧げる者達が唄い、あるフロアでは憔悴し、自分しかいない空間でデスクに頭をもたげ、何処へともなく視線を泳がせている……。

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