第120話
「あ、あれっ……スベっちゃった。礼子ぅこの寒い空気をなんとかしてよ……」
「さっきから何やっているの……スベったとか馬鹿じゃないの……それと、礼子さんの事を偉そうに呼び捨てで……」
「いいのよ舞……私がそうしてってミネルヴァに頼んでいる事だから……」
私の言葉を遮り、笑いが止まらない礼子さんが仲裁に入った。
「でも……」
「いいの……本当にいいのよ……」
モニターの端をゆっくりと親指以外の4本の指で優しく撫でながら、表情を少し寂しく変化させた礼子さん……すかさずミネルヴァが画面の端に移動して、頭を撫でられているかの様に気持ち良さそうに目を閉じ、頷く。
そうしながらも片目を開き「べぇぇ」と舌を出し、ミネルヴァは私をからかう……。
「くっ……」
少しミネルヴァを睨んだ。
「ふふふっ……お互い初めて顔を合わせたのに、仲が良さそうね……安心したわ」
「仲良くなんてありません……」
「そんなぁ舞ちゃん……冷たい事言わないでよぅ」
「馴れ馴れしく、ちゃんなんて呼ばないで……」
「そんな邪険にしないでよぅ……万希子やアリス、流花と葵の事で怒ってるなら謝るから。あれはボクが提案したんだよ……だから礼子は悪くない。これからは、舞ちゃんの好みにヴィーラヴを調整するからさぁ……だから許してよ……」
「いいのよミネルヴァ……舞の件は私が最終的に判断したのだから、全ての責任は私にあるの。だから舞も彼を許してあげて……」
つまりは、彼のさじ加減でヴィーラヴは如何様にもなるという現実がここにある……淑やかにも、荒々しくも、各々の個性を変化させるのも思いのまま。魅惑的な言葉をメロディーに絡め、人々を虜にする楽曲を提供する。おそらくは、自身の能力の僅かな領域しかヴィーラヴには使われていないのだろう。その全てと言っていい「才能」は、礼子さん達の想いの実現に費やされている……。
ミネルヴァ自身にしても、その性質は「男」にでも「女」にでもなれる。
礼子さんが、男の方が私に合うと判断し、親しみ易くする為にあのふざけた性格がかたち創られた。
元々、個性なんて必要なかったのかもしれない。無数に広がる黒い立方体達の様に、低い唸り声で膨大な計算を処理し続けるユニットの一部であってもいいのだから……。
しかし、礼子さんは「彼」を産み出した……彼の性能が「彼ら」と異なるのかは私にはわからないが、彼らとは違う特別な色を纏ったミネルヴァからは、礼子さんに選ばれ、個性が存在している事に誇りを持ち、喜んでいるという想いは、礼子さんとじゃれ合う彼を見ていると伝わるものはある……。
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