第119話

「紹介するわ舞……ヴィーラヴのプロデューサーよ……」


「えっ……?」


「なんとも可笑しいでしょう舞……プロデューサーの正体は純白の箱。それを皆、血眼になって誰だなんて勘繰ったり、話しているのを見ていると……ふふっ、可笑しくて……」


「プロデューサー」の傍に設置されたコントロールデスクに向かい、ワーキングチェアに座り、各種の認証作業を行いながら礼子さんの口調は軽やかで強かだ……。


「これが、プロデューサーですか……」


「そうよ。ここにある沢山のユニット群を統括し、かつヴィーラヴを産み出し、彼女達に躰を与え、個性を植え付けてグループのコンセプトを構築して、楽曲を提供する特別な白いユニット達……プロデューサーであり、私達の想いを叶える真の遂行者。それが、このミネルヴァよ……」


 プロデューサーも、またしても「人間」ではなかった。


 万希子さんの出来事が脳裏で再生される……。


「はっ…………」


 礼子さんに紹介され、戸惑い気味に眺めていたミネルヴァから目を逸らす……あの言動、あの行動が恥ずかしい。


 この白い箱に万希子さんを庇い、乗じて自身の真の感情までも吐露し、絶叫していた私……。




「おぉっ、照れてる照れてる……恥じらう姿もこれはこれで……」


 男の声が言った……私が感情をぶつけた時とは声色が異なり、コミカルな語り口ではあるが、人をからかう言い回しは「彼」そのものだ……。


「キョロキョロ辺りを見回してもボクはいないよ」


「…………」


「ここだよ……ここ……礼子の隣」


 礼子さんが笑い、座っているデスクに置かれた42インチ程のモニターの方から彼の声は聞こえ、画面から徐々に人間らしき姿が浮かび上がってくる。


「はぁ〜い、こんにちは舞ちゃん……二度目まして」


 礼子さんに手招きされ、画面に近づいた私にふざけた声と姿で現れたミネルヴァ……3頭身のデフォルメされたアニメキャラを纏い、画面の中を行き来している……。


「な、何が二度目ましてよ……ふざけないで」


「おぉっ、怒った顔が可愛いねぇ……普段の綺麗な顔立ちとのギャップに萌え萌え〜なぁんて……」


「うるさいわよ……」


「まぁまぁ……このキャラも舞ちゃんを緊張させない様にって礼子に頼まれて演じてるだけだからさっ、怒らない怒らないっ……てへペロッ」


 可愛らしいウインクをするミネルヴァ……。


「くっ……」


「んもぅ、そんなに睨まないのっ……べっ、別にマイマイの為にこんな姿になってるんじゃないんだからねっ!」


「…………」

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