第86話
どうせわかってしまう事……不要な神経を尖らせてまで開催場所を秘密にしなくていい……。
既に社長の宣言前に、ネット上にて場所は特定されていた。
シークレットライブ当日……もはや「シークレット」とは言えない開催場所には、会場に入れる者、入れない者、野次馬、マスコミ等が集まり、周辺は様々な念と熱が混ざり合い、異様な空間となっていた。
ヴィーラヴに逢う事を許された者からチケットを奪い盗ろうとする輩や、混雑に乗じて会場内に侵入しようとする者達は、警察や警備会社によって逮捕、排除された……当然、セキュリティには万全を期した……。
「みんなぁ〜いっくよぉ〜〜っ……!」
詩織のかけ声が会場に響き、後に「伝説」となるシークレットライブは開幕した……。
実に5度にも及んだアンコールを含めたライブは、3時間弱続いた……ヴィーラヴを目の当たりにした者達は、彼女達の歌声、ダンス、佇まいにただ、酔いしれた……。
皆、もうこれで死んでもいいと決めたかの様に、ヴィーラヴを感じ、身を心を預けていた……。
しかし、会場の外で僅かでもライブの、ヴィーラヴの「おこぼれ」を欲している者達や、てっきりライブの一部でも撮影が許可されると踏んでいたマスコミは、手ぶらで「敗北者」になる事に納得しない。
陶酔した人々に群がり、インタビューするマスコミや、あらゆる出入口に貼りつき、警察、警備会社と揉み合いながらひと目、ヴィーラヴを瞳に焼きつけたいと……待ち構える者達。
騒然とした中、ダミー車両が数ヶ所から出てゆく……。
追いかけるマスコミ陣や一般人……。
だが、会場を取り巻く者の数は、それ程は減らない。
時間を置いて2陣、3陣とダミー車両が出てゆく度に「これが本命」と賭けた者やマスコミ陣が車を囲み、追跡する……。
そして第4陣……私達が使う車両が姿を現すと、裏の裏の裏を読んで残っていた大部分の者達が「本命」車両に飛びつく。
プライバシーガラスにカメラやスマートフォンを押しつけ撮影する者……推しメンバーの名前を叫びながら、車のボディーや窓ガラスを叩く者……おびただしいカメラのレンズ、ライトの閃光、フラッシュの嵐、人々の眼、歓声と怒号が入り混じる異様な空間と景色……。
警察、警備会社が彼らと「闘い」車から引き剥がす事1時間弱、ようやく私達の車は追跡を試みようとする車やバイク、空に舞うヘリコプターを引き連れて会場を後にした……。
会場の照明が落とされ、街灯のみとなった熱を帯びていた空間は、一気に寂しさが覆い、冷気を漂わせる……。
その後、6陣までダミー車両の放出は続いたが「本命」車両がヴィーナスタワーに到着した事がネット上で周知されると、会場周辺に僅かに残っていた者達もようやく諦め、何処か悲しそうに肩を落とし、それぞれの「現実」が待つ自らの居場所へと帰って行った……。
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