第68話

 居住面積の小さい「サウス」でさえ、200平方メートルを超え「イースト」「ウエスト」に至っては、300平方メートルに迫る広さを誇り、それぞれの戸境や内部を改装して、この3戸を自由気ままに行き来可能に仕立てられている……と雪が自慢する……。


 同階の北側の住居も、会社が所有するが「贅沢」な事に今は「塩漬け」になっているとか……。


「ウエスト」のメインエントランスを抜け、雪が両開きのドアを開けると、40帖程の広大なリビングダイニングルームが現れた。


「あれっ?マイマイ……」


 ぽかんと、意外そうなキャロルアンの反応。


 この住まいに相応しいイタリア製の高級ブランドのソファーに座り、部屋着に着替えて各々に寛ぐ詩織車のメンバー……。


 確かに、富裕層定番の高級ブランドの家具類、100インチはあろうかと存在を強調する有機ELのディスプレイ……しかしそこに彼女達の趣味性は感じられない。無駄なものは「排除」され、質素とも思える……その「寂しさ」を補う様に、南に面した大きな開口部からは、六本木方面の夜景がこの空間に彩りを添える……。


 割り当てれているそれぞれの個室は、きっと個性的なのだろう……。


 私の来訪に、やや驚いた表情の詩織と万希子さん。


「どうしたの……マイマイ」


 当然の様に詩織が訊ねる……。


「ちょっと、葵と流花に話があって……」


「ふ〜ん……」


 詩織の眼は、私の後ろでばつが悪そうに立つ葵と流花に向かう……ヴィーラヴのリーダーである詩織が、綻びに気づいていない訳はなく、目線をもって圧力を加える詩織……。




「んもぅっ!」


 耐え切れなくなった葵が半泣きで駆け出し、乱暴にとあるドアを開け……消えた。


「待って、葵ちゃん……」


 流花が追う。


「ちょっと葵、流花……」


 詩織が腰を浮かす……声色は平静ではない。


「いいの詩織……私が行くわ……」


 私は葵と流花が消えたドアに近づき、詩織を制した。


「皆心配しないで……そんなに込み入った話にはならないわ……話が済んだら私は勝手に帰るから、皆はゆっくり休んで……」


「わかったよマイマイ……それじゃぁ任せるね」


 幾分、不満そうな表情を滲ませながらも、私の提案を受け入れた詩織……。


「ありがとう詩織……それじゃぁ皆、おやすみなさい……」


 何とも形容し難い表情のメンバー達に見送られ、静かにドアを閉めた私は「未知の領域」を進む。


「葵、流花……何処にいるの……」


 街灯りが仄かに照らす空間を歩く……幾つかのドアを開けては閉める……また広いリビングダイニングルームが現れる……「サウス」にも葵と流花がいる気配はない。


 勘を頼りに「イースト」に繋がるドアを探し、開けてゆく……程なく「イースト」のリビングダイニングルームに到達する……。


 感じる……葵と流花を……。


「葵、流花……いるんでしょ……」


 返事はない……。

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