第55話

「アリス、もう万引きなんてしないと私に約束して」


 私の願いに応えず、パフェを食い、小狡そうに笑いながら上目遣いで私を伺うアリス……。


 最後の「あの台詞」の後の事は、よく覚えていない。


 ココアを一口啜る……ぬるい。


 そうなるまで話を切り出すのに時間を費やしてしまった……。


「マイマイには悪いと思ってる……でも、本当にマイマイが来てくれるなんて思ってもみなかった」


「どうして?」


「えへっ……やっぱりマイマイは真面目だね。普通、来ないよ……てっきり会社のその筋の専門の人間が送り込まれて来るんだと思ってたんだけどなぁ」


「専門の人間?」


「要するに、黒スーツにサングラスの如何にも裏の世界の人間が、問題が表に出ない様に交渉するって感じ」


「それって、脅しって事……」


「表向きには紳士的にだよ……いきなり殴る蹴るはないけど、まぁ状況に応じてグロイ交渉もありって感じぃ」


 ならば何故、アリスは「彼ら」を真っ先に呼ばなかったのか……私なんかよりよっぽどスムーズに事を収められただろうに。あんな「台詞」を吐いてまで演目を終了させた私は何だったのか……心が急速に萎れてゆく。


「でも、マイマイが来てくれてアリス、嬉かった。マイマイを信じて良かった……マジ、嬉しいっ」


 萎れた私の心を見抜き、アリスがしおらしく私を見つめ、言う。アリスの想いが心に響く……。


 しかし、あの台詞を吐いたのだ。社長には報告しなければならない。アリスが万引きし、あろう事か真実を闇に葬り去ろうと画策し、実行した……「カネ」の絶対的な力によって……。


 再び心が萎れかかる。


「でもさ、マイマイのあの最後の台詞、マジでカッコ良かったよ……真打ち登場って感じでアリス、背中がゾクッてしたよ」


 私を覆う重い雰囲気の「膜」を乱暴に剥ぎ取るアリスの言葉とはしゃぐ姿。


「格好良くなんてないわ……」


 テーブルに肘を突き、手のひらに頭をもたげ、ぼんやり外を眺め吐き棄てた。


 他の解決策はなかったのか……でも、あの状況、私のスキルではアリスを、ヴィーラヴを守る為にはあれしかなかった。私の土下座なんて所詮戯言。いずれは社長の使者がカネを払うのだ。


「そうでしょうアリス……」


 心で呟き、縋る眼でアリスを見た。


「甘いねっマイマイっ……あいつら最初っからカネ目当てだよ」


 強かな瞳のアリス。

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