第56話
「だってさ、考えてもみなよ……アリスが逆ギレした時点で普通、警察呼ぶよ。でもあいつらはそうしなかった……って事は、警察沙汰にしたくない。そうなると面倒な事になる。色々とね……少なくとも、店長さんはそう思ってた。んで、店長さんのプランは、万引きなんてなかった方向へ持って行き、あくまで仕方なくカネを受け取り、互いにめでたしめでたしって筋書きだよ」
「じゃあ、逆ギレはわざと……」
私の問いに悪戯っぽく笑い、ペロリと舌を出すアリス。
「まぁねっ……店長さんもまさか多田坂があんなパンチラ盗撮してるなんて思ってもなかったよね。だから、逆ギレして通報されそうになったら多田坂の事追求してやろうかと思ってたら、意外に店長さん弱くてシュンとしちゃって……あぁ、これは通報しないな、カネ目当てだなぁって。だからマイマイは正解だよっ。解答はひとつしかなかったんだよ……そんなに自分を責めないでよ」
アイドルとして、普通の人間では体験し得ない世界に身を置いているとはいえ、アリスはまだ14歳の少女……。
自らの犯罪行為を吹き飛ばし、わざと逆ギレし、相手の出方を伺い、形勢が有利と見るや、容赦なく「口撃」を浴びせて相手を完全に沈黙させてしまう計算高さと強かさは如何にして形成されたのだろうか……。
「やだぁマイマイっ、そんなに見つめないでよ。恥ずかしいよぅ」
足をバタつかせ、アリスは顔を赤らめる。
無垢で幼い少女の顔と、冷徹で狡猾な顔を使い分け、巧みに人の心を操るアリス……私も知らない内に操られているのだろうか……心を。
仮にそうだとしても、アイスクリームを満面の笑みで食べている愛くるしいアリスを見ていると、巧妙に仕組まれた心地良い独特の感覚に浸っているのも悪くないと思う自分が、存在しているのも否定はできない。
しかし、だからといってアリスの行為が許される筈はない。
心地良い世界を遮断し、アリスを諌めなければならない。私しかできない……そう自身も諌め。
「アリス、どうしてこんなに遠くまで来て万引きなんてしたの?わからないわ……」
アリスは瞬時に顔を曇らせ「だよね」と目線を変換して、半分程残っている溶け始めたアイスクリームをスプーンで突きながら、生い立ちを呟く。
私と「真逆」の環境に晒された過去を……。
「まぁ、単純な話だよマイマイ……アリスのパパとママだった人は、皆が知ってる大手スーパーの社員でいわゆる職場結婚ってやつ」
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