第20話
ヴィーラヴなる原石は、最初から優秀な鉱山で採掘され、革新的な研磨とカッティングを施し、上質なプラチナの台座に丁寧に置かれ、ダイヤモンドさえも脇石に追いやり、インクルージョンの全く存在しない至高の煌めきを照射する「華」となって咲き誇った。
同化と共有には程遠い存在……しかし、世間には寧ろ都合が良かった。原石達を研磨し、成長体験を共有し「虚構」体験を喜ぶ程の生命力は彼らには残されていなかった。社会環境、経済情勢も「それ」を許さなかった。
閉塞した世界で、誰もが自分だけを守る為に全ての能力を費やしていたのだから。
「だから、都合が良かったのね……最初から煌めいていたヴィーラヴは、鬱屈した生活と心の闇を安易に照らし、浄化してくれる存在……舞さんもそう思うでしょう」
「そ、そうですね……」
私の「背後」に憑く過去に問いかける社長……曖昧な言葉で応じる私。
こうしてヴィーラヴは一躍、強者の頂点に君臨し、私達を陶酔させる……。
「まぁ、これからどうなってゆくのかは、私にもわからないけれど……」
肩を竦めての、ちゃぶ台返しの社長の発言で物語は締め括られた。
「よいしょっと……」
重い社長室のドアが「暴力的」に開かれた。滞留していた空気の圧力が私達の髪を揺らす。
「あーっ、ここにいたぁマイマイ」
社長室の威厳という「膜」を引きちぎりながら、アリスは私達に迫る。
「あらあらアリス、どうしたの」
こんな「光景」など、日常茶飯事……。
社長は滑る様に視線をアリスに移し、いなす。
「あらあら……じゃないよ、礼子さん。いつまでマイマイを独占してるのさ」
目上の、しかも社長という役職に対する言葉遣いを完全に無視したアリスの物言いと態度にも、社長は怒る事すらなく、仲の良い親子の様にアリスに接し、微笑みを振る舞う。
「ごめんなさい……色々話が弾んでしまって」
「またまたぁ……どうせ、アイドル氷河期うんぬんの話をマイマイに聞かせてたんでしょっ……ったく、礼子さんはそういう話をしだしたら止まらないんだから。私達なんかもう何回も同じ話聞かされてさぁ……」
「そうだったかしら」
「そうだよっ……いーいっマイマイっ、礼子さんのこの手の話はテキトーに流していいから」
「あら、そんな悲しい事、言わないで」
「はいはい出ましたぁ、その寂しげな表情……そんなに寂しかったら、男のひとりでも作れってぇの」
「相変わらず、厳しいわね」
社長という「壁」を乗り越え、全身全霊、本音で体当たりするアリス……まんざらでもない社長の表情と躰の仕草。
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