第17話

「わかりました」


 リーダーの詩織が答えた。


「安心して下さい」とでも言いたげに私を見ると、優しくはにかんだ。


 これから、彼女達と歩んでゆくのか……。


 彼女達の漲る生命力に呼応して、躰が温もりを帯びてゆく。


 これが、ヴィーラヴ……。


 魂が透き通り、浄化される感覚……心が解放され、軽くなる。


 背中から白い羽根が生まれ、飛べる。そう感じる程、今の私は身軽で束縛もない。


 ヴィーラヴにあてられている私を、悦に入った仕草で眺める社長。




「わっ…………」


 突然、近くの席にいたメンバーが、私に飛びついてきた……彼女の強い衝撃で躰がよろけ、倒れそうになるのを堪え、抱きとめる。


「よろしくねっ、マイマイっ」


 アリスだった……突飛な行動と言動。世間の評判と資料に裏づけられた「洗礼」……これも、アリスなりの気遣いなのか。


「んもぅ、初対面だよアリス」


 詩織が諭す。


「えへっ……」


 14歳にして、長身の躰が私の両腕の中にぎゅっと収まっている。香水とも異なる甘い蜜の香りを燻らせて、私の首に両手を絡ませるアリス。


「こちらこそよろしくね……アリス」


 他の誰にも聞き取れない声で、アリスの香りを楽しみながら耳元で囁いた。


 私は、両腕の力を増してアリスをより強く感じた。アリスも抵抗しない。


「んもぅっ、アリスばっかり狡いぃ」


『そうだそうだ』


 葵が舌足らずな甘い声で嫉妬し、モカ、モコが乱れのないシンクロで続く。


「べえぇーっ」


 ふたりに舌を出し、狡賢く笑うアリス。


「あぁんっ、腹立つぅ」


 そんな要素など含んでいない声色で、程良く「むっちり」した躰を私に貼りつける葵。


『ウチらも行くよーっ』


 モカとモコも葵に触発され、ねだる様に私の躰に絡みつく。


「もう、しょうがないなぁ……」


 私に近づきながら、詩織が呆れ気味に言う。


 残りのメンバーも、私に「引き寄せられ」私を中心にヴィーラヴの環が形成される。


 彼女達の「気」彼女達の「香り」彼女達の私を慈しむ「心」。


 初めて得る特別な快感に、しばらく酔い浸り、脳が透き通ってゆく……。


 環を俯瞰して観ている社長は「本当に」嬉しそうな姿を晒し、悦楽の雫が頬を這う。


 一歩を踏み出して良かった……。


 そう……今この時から、私は蛹から羽化したのだ。虹色の翼を広げ私は羽ばたく。彼女達の輝きと愛に満ち溢れる素晴らしき世界……。




「新世界へと…………」

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