第4話

 が、3年目を迎えた私は、答えを導き出せずにいた。


 数少ない「仲間」達が、自分の人生をほぼ決定づける「戦い」へと踏み出そうとしている。


 天国か地獄か……。


 楽園期か氷河期か……。


 予測不可能な不気味な経済の「流れ」によって、彼らの一生が左右される。


 私達に、生まれる時期や環境は選ぶ事はできない。


 では……幸せとは何か?


 一流企業に潜り込み、同僚を欺き、上層部に媚びへつらう事で得られる限られた枚数の年功序列型終身雇用列車の「虚しい」グリーン車の指定券なのか。


 つまりは……「カネ」


 この国、この世界はカネに呪われてしまったのか。カネの為に嘘をつき、人を傷つけ、騙し、殺し、カネの上に立とうと血眼になる。


 絶対的な信用と価値を獲得した、天使と悪魔が同居する、人間が生み出したこの世界で皮肉にも最も「万能」な発明。


 人間は生まれた瞬間から「カネ」の呪縛に取り憑かれ、翻弄されながら「死」をもって解放され、真の自由を体得する。


 ならば、如何にしてカネに翻弄されず、健全に生きて、穏やかな死を迎えられるのか。


「…………」


 私は「愚か」だ……。


 私自身の環境が如何に恵まれているのかもわからずに、仲間を蔑み、偽善者の仮面を被り、上っ面な表現で社会の歪みを論じてみせている。


 何て嫌な女……。


 人が寄りつかないのも、当然だ……。


 そんな、悶々とした想いと日々の3年目、私は彼と出逢った。




「どう、穏やかな表情でしょ」


 そんな筈はない。乱暴に彼のカメラを取り上げ、醜い私を消去しようと、私自身と対面した。


「……嘘」


 無意識の内にある本質……。


 私の、私である、私たらしめている、ほんの一瞬垣間見せた「本質」を彼は見逃さなかった。


 私の心にも、こんなにも穏やかで、静かな世界が存在して、モニター画面に映し出されている。


 ナンパまがいに話かけられ、私の前に立っている男に焙り出された真実が、私の魂を浄化してゆくのか……。


 心から、柔らかい輻射熱を放出し、全身が暖かくなってゆく感覚。


「ほら、生き生きとしてるでしょ」


「…………」


「どうしたの?」


「い、いえ、ここに映っている自分が、何だか私ではない気がして……」


 俯き、照れた声で答える自分が、恥ずかしい。


「照れる事なんてないよ」


「……でも」


「画像、消去しなくてもいいよね」




「い、いいわ……」


 馬鹿らしく色香を燻らせ答えると、勢いよく奪い取ったカメラを「素直」に彼に返し、問いかけた。


「それで、今ここに映し出されている私には、私自身の私たらしめている本当の姿が焙り出されているのかしら」

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