秘密結社LOVE

日曜日夕

秘密結社LOVE

 ―――慎重に選考を進めた結果、誠に残念ながら、今回はご期待に添えない結果となりました …


 メールを確認しながらうなだれる。「これで26社目だ...もうだめかもしれない」

 これだけ多くの会社を受けても、何処も自分を求めていない。あぁ...僕は誰からも必要とされていないのか。そんな自己嫌悪に陥っていたその時、チラシがどこからか飛んできて、僕の足に引っかかった。

 

『  秘密結社LOVE 団員募集!!

   貴方も秘密結社で働いてみませんか?

             能力次第で数年で幹部に!!

 アットホームな職場です!

              ・勤務時間 9:00~18:00(休憩1時間,残業有)

              ・月収 20万~

              ・完全週休二日制

TEL:0000-9526*5

                    ※当社は改造手術は一切行いません』


 「なんだここ.........秘密結社...?......応募してみるか......」

 僕の頭は、たぶん、おかしくなっていた。

―――






 「はい、それでは面接を始めさせていただきます。」スーツに身を包んだメガネの男性が口を開いた。「私、秘密結社LOVEの人事担当の井出と申します」

 「お願いします」

 「まぁそんなに畏まらなくてもいいですよ。弊社は人物重視で採用を行ってますから。緊張すると素が出せないでしょ」井出さんは微笑みながら語り掛ける。

 「あ、ありがとうございます」

 「それでは...牛塚さんね...なんで弊社に入ろうと思ったんですか?」

 「はい...偶然チラシを見つけまして...それで...私は就職活動に失敗し続けていて、こう、社会に対する不満とか、そういうのがありまして、社会を変革とか...」

 「......あぁ...君、何か勘違いをしてるみたいだね...」

 「え?」

 「弊社、秘密結社LOVEは、別に社会変革とか、世界征服とか、そういう結社じゃないんだよね」

 「え?でも秘密結社って...」

 「悪の結社とか言ってないよね。変革とか征服とか、そういうのはまぁ悪だよね。日本じゃ違法だから。そんな結社は政府に潰されちゃうでしょ」

 「あ、そうですね...」

 「たしかにウチは秘密結社だから活動については社外秘だし、ホームページもないから、わかんないだろうけど。そもそも調べようとしてないでしょ君。」

 「ア...はい。ソラナビになかったので...ネットにも...なにも...」

 「ふぅん」

 これは終わった。面接玄人には分かる。手ごたえが全くない。そもそも企業理念とか活動が秘密な時点で志望動機とか考えられないし!!

 「ま、いいや。志望動機なんて使いまわす人もいるしね。勘違いだったけど、君みたいな正直な子は好きだよ」

 「あ、ありがとうございます...」フォローが痛い。もうだめだ。ここも落ちた...もう自棄だ。

 「つぎの質問、じゃあ...趣味は何ですか?」

 「秘密です」

 「なぜ?」

 「シークレットだからです」

 「学生時代頑張ったこととかある?」

 「著作権の関係でここでは語れません」

 「大学での専攻は?」

 「情報セキュリティ論です」

 「口は堅い?」

 「友達がいません」

 「.........」

 「.........」

 「.........ごめん.........」

―――

 





 3日経った。まだメールは来ていない。まぁ当たり前だ。あんな面接で、受かるはずは...

 「you got a mail」

 おっメールだ。不採用通知かな。


―――選考の結果、牛塚様を当社社員として、4月1日付けで採用することに決定いたしましたのでご連絡いたします。つきましては...


 !!?!!?!受かった!!?あんな面接で!?なんで!!?やったー!!何するところか全く知らないけど!!

この時の僕の頭も、たぶん、おかしかった。

―――







 次の日の朝、僕が目覚めると、そこは自分の家じゃなかった。

 「お目覚めかね...?牛塚幸平君...」

 「ぅぇ?ぉ母さん...?」

 「お母さんじゃない。もう10時だぞ。いいかげん起きなさい」

 「大学生には難題......ここどこですか」

 「秘密結社LOVEの本社だ」

 「え?拉致ですか?」

 「違うな...親御さんには話はつけてきている」

 「マジでなんなんですか...」

 「今日は君に渡したいものがあってな」

 「なんっ...ですか」

 「採用内定通知書だ」

 「え...あ、ありがとうございます」

 「どうだ。入社する?」

 「はい...ほかに行くところもないし...」

 「じゃあここにハンコとサインを...あ、親御さんにはもう貰ってるから。大丈夫」

 「なんかなぁ」

 釈然としないが、書類にサインして謎の男に渡した。

 「...はい。受け取りました。じゃあこのまま当社の活動について話そうか」

 「あ、今語るんですか。ありがとうございます」

 「そういえば、名乗ってなかったな。私は秘密結社LOVEの人事担当井出だ」

 「井出さん。面接の時とキャラが違いますが」

 「あっちが作ってる方だ」

 「なるほど」

 「私たち秘密結社LOVEの活動は、ずばり、”秘密”だ」

 「?教えてくれるんじゃ...」

 「あぁいやそういう意味じゃなくて、”秘密”を扱う秘密結社なんだよ。私たちは」

 「面倒ですね」

 「そういうな。ちゃんとした理由がある。私たちが扱う秘密とは、日本全国に数多ある”秘密結社の秘密”だ」

 「おぉ...さらに面倒に...」

 「”秘密結社”が世に知られることなく”秘密結社”として活動できるよう、”秘密結社”の活動や政治団体や利権企業とのつながり、各秘密組織の団員の個人情報保護も行っている。物事を秘密にするのは手間がかかる...そこを支えるのが私たちだ」

 「もう訳が...秘密結社って数多あるんですか...」

 「ああ、日本は秘密結社大国と言ってもいい。私たちのクライアントだけでも1万はあるぞ」

 「1万!?そんなに?嘘でしょ」

 「嘘ではない。全ては秘密結社LOVEが秘密にしているから、誰も知らないのだ」

 秘密結社LOVE...それは秘密結社の秘密を守る秘密結社。なにやら不穏なにおいがプンプンする...でも何だろう...この、胸が高鳴る感じ...。僕はこういうのが好きなのかもしれない。こういう、アンダーグラウンド的な...

 「そういや」僕はここでずっと抱いていた疑問をぶつけることにした。「なんで僕を採用したんですか?...あ!情報セキュリティを専攻してたからですか?」

 「ア...いや...別にそうじゃなくて...」

 「え...?」

 「友達...いないって言ってたし......情報洩れる心配ないな...って思って...」

 「.........」

 「.........」

 「.........」

 「.........ごめん.........」


僕の社会人生は始まったばかりだ。

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