二人の出会い

第1話

「お前さん、なんでそこで寝ている」


 男は、道に寝そべっている私を見てそう言った。10人が見て10人はこう答えるであろう答えを男に言う。


「孤児だから」

 男はそんなことは知っているという風にこう切り返した。

「孤児院で寝ないのか?」

「昨日追い出された。動けないヤツを置くより動けるヤツを置くほうがいいって」


 私は戦争孤児だ。もちろん私以外にもたくさん、腐るほどにいる。そこで私は足を折った。足のみで立つことが出来ず、何かに掴まなければ立つことが出来ない。


「昨日か、その間の飯は食ったのか?食ってないならこのくそマズのパンをくれてやる」

「いらない」

「どうしてだ」


 どうしてだって?そんなのあたりまえのことだ。普通の人は孤児なんかに近づかない。来るヤツは基本的に何か思ってのことだ、だからわざわざ孤児に対して何かを持ってくるものは何かが仕込まれているって考えるだろう。それが孤児の共通の考えだ。


「毒か何かを考えてるのか?それに関しては大丈夫だ。何せこれは、俺が普段食っている保存食の余りだからな。そんなに気になるなら目の前で少し食ってやろうか?あまりこのマズいものを食いたくはねえが」


 だから私は目の前で手に持っているパンを齧ろうとしてる男に対してこう聞いた。


「あんたはどうして、私にかまってくるの?」

「特に理由はない」

 間髪入れず端的にそう返してきた。

 そんなこと信じられるわけがない。私は怒鳴り返す。

「理由がないなんてありえない。来るヤツすべてここにいたヤツらを連れてった!あんたも何か考えて来てるんだろう!?」


 男は少し驚いたような顔をした後大口を開けて笑い出した。

「確かに、孤児相手に善意でものをやるヤツなんかそうそういねぇだろうな。そう言われちまったら俺だって下心はあるさ。けどな、目の前で腹空かせるガキがいたら飯をくれてもだめなのかよ」


 そんなことを言われても私は孤児だ。街の人間の、大人の考えなんか知る由もないから同意を求められてもわからない。私の答えを待たずに目の前の男は少し機嫌良くしゃべりだす。


「俺は、どちらでもいいと思っている。今の俺は保存食が余ってるからこうしてくれてやろうとしている。が、余ってなかったらこうしていないだろうな。ただの善意じゃなくて偽善だよ」

「偽善?」

「そう、偽善だ。ただの自己満足を満たすための行為。俺は孤児にパンをやったという達成感をかなえるためにこれをやってる。今回は別の理由もあるがな」


 そう、こいつは下心があると言っていた。それが何なのかはわからないが今言った偽善というものと理由がそうなのだろう。しかし、聞く限り偽善というものは人に明かさないものなのではないのだろうか。それをこの男は本人を前にしていった。バカなのか?


「理由ってなんだ」

「それはだなっと、少しばかり長話になるかもしれねぇから座って話すか」

 男はそう言って目の前に胡坐をかいて座った。そして懐から小さい箱と細長い棒を取り出した。


「ん?これが気になるか。これは煙管っていうものだ。露店で売られていたから買った。なかなかいいものだぞ?」

 じっと見ていたのがばれたのか、煙管の説明を始める。

「これはデザインが良くてな。この吸い口と火皿が金属になっててな、管の部分が木になってる。管に模様が施されててな大輪の花と蝶が描かれているんだ。綺麗だろ?」

 私は男の説明を聞きながら、男の持っている煙管に目を奪われていた。

「綺麗、こんなの見たことない」

 男は自慢げに言った。

「だろう?俺もこんな小物にここまで手が込んでいるものを見たことがない。実に俺は幸運だ。これには金貨数枚の価値があるってのにその露天商は銀貨3枚で売ってたからな」

「銀貨ってどのくらいなの?銅貨は知ってるけど」


 何を思ったのか私は無意識に男に問いかけていた。

「銅貨1枚でパンが二斤、銀貨1枚でパンが46斤だ。なんだその顔は、分かり易いように説明したぞ」


 私の微妙な顔を見てあわただしく言ったが、その説明では余計わかりずらかった。だから、もっと分かり易い説明を求めるのも自然なことだろう。


「もっと、孤児にも分かり易いように説明を」

「うーん、孤児にも分かり易いようにか。ならこれはどうだ?銅貨1枚で10人の孤児の朝飯が用意出来る。銀貨1枚で230人の孤児の朝飯が容易できる。これならどうだ!」


 活きこんで言っているが、先ほどの説明よりかは分かり易いような分かりにくいような。しかし、それだけの価値があるものだと理解はした。

「で、その煙管は銀貨3枚で買った」

「そうだ。ついでに金貨は930人の朝飯は出るぐらいのもんだ」

「人数が多すぎて逆に分かりにくいよ」

「まあそんだけのもんだと考えとけ。っと、それよりだ。話を戻すが、お前さんに話しかけた理由は、俺の弟子にできないかと考えたからだ。まあ、突然言われても困ると思う。しかも、何の弟子だって話しだしな。俺は、商人だ。しかもただの商人じゃねぇ、街と街、村と村を行きかう商人、行商人だ」


 商人は知っている。けど、行商人なんてものは知らない。商人と一緒で何かを売るものなんだろうか、それとも露店商人と似たようなものなんだろうか。けど、街と街を行きかうと言っていた。では、どこでものを売り買いするのだろうか。


「行商人は簡単に説明できるものでもないからな。気になるならこのパンを食って俺についてこい。そうじゃねえならここでお別れだ」


 私はそんなことよりも気になっていたことがあり、男に聞く。


「ねえ、その行商人っていうのになったらあんたが持ってる煙管も買うことが出来る?」

「これか?運も絡むことがあるが、世界を旅すればこの煙管に似たものに出会うことも有れば買うこともできるだろうな」


 そこまで聞いた私は、男の持っているパンを奪い取って勢いよく食べていく。

 そんな私を男はにやにやしながら見て、煙管を吸い始めた。

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