第14話 ★最初のエールがもう一度、飲みたい
※お知らせ
トップにも書いていますが2018年2月21日『深夜、コンビニ、探訪録』の大幅加筆修正が完了しています。詳しくは活動報告で。
★この話は『とある作者の執筆日記』の『第3話 ★別のエールを飲んでみよう』から続く話になります。
★この話の直接の続きは『とある作者の執筆日記』の『第4話 ★異世界でのエールについて考える』になります。
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この日も、またエールを探しにコンビニへと行く。
何度目だよ、と思われる方もいるかもしれない。
三度目だ。
しかしそれにも理由はちゃんとあったりする。が、それは別のところで語るとしよう。
この日も玄関を開けて外に出る。勿論装備はスウェットに黒のロングコートだ。
当然、財布と鍵も持っている。
これを忘れると大変な事になるし、実際それぞれ一度だけ、忘れた事がある。
大変だったよ……。
今日は一番近いコンビニへと行く。
いつも一番近いコンビニへと行く時は、実のところ特に理由はない。
一番近いから、二番目のコンビニか三番目のコンビニに行きたいと思う用事が特になく、そういう気分でもない場合はそのまま一番目のコンビニへと行く。
だって一番近いのだから。
しかし今日は一番目のコンビニへと行く理由がちゃんとあるのだ。
それが何か、と言うと、最初に飲んだエールをもう一度飲んでみたくなったからだ。
最初に飲んだエール。プレミアムモルツの香るエール、は二番目のコンビニには置いていなかった。あの時、見た感じだと空になっている棚があったので、単純に一時的な売り切れ状態、あるいは商品補充前だったのかもしれないが、とにかく僕が見た時は置いていなかった。
なのでもう一度、確認すれば置いてあるかもしれないが、わざわざその可能性のためだけに二番目のコンビニへと行く気にはなれなかった。
なので今回は一番目のコンビニへと向かっている。
いつもの並木道、いつもの歩道を一番目のコンビニへと歩く。
今日は特に何も起こらない。
何か起こればネタにでもなるのにな、と思うが、何も起こらないのだから仕方がない。
そこでふと、昔聞いた某元大物お笑い芸人の話を思い出す。
彼は言った。
お笑い芸人がおもしろネタとして喋る話。その話のほとんどは、実はなんて事はない小さな出来事を勝手に何十倍にも膨らませて語っているだけで、実際にそのまま起こっている話ではない、と。
お笑い芸人もただの人間でしかなく、普段は普通に暮らしているだけなわけで、日常生活でそんな面白い話に度々遭遇するはずがないだろう、と彼は語った。
なるほど。確かにそうかもしれない。
言われてみると納得と言うか、それが当たり前な気がする。
また彼は言った。
料理人が食材を見て、自分が手を加えた後に出来上がる料理を想像するように、お笑い芸人はちょっとした出来事を見て、それがどう変われば面白くなるかを考える。
そこで面白くなれば、それは面白い話なのだ。
そして数日後にはその改変された話が脳内で『実際に起こった出来事』という事になり、その話を何人にも話していると、色々と変化が出てバリエーションが増え、その出来事が何度も起こった事実になる、と。
なるほど。中々に面白い話だ。
確かに日常生活にはそうそう面白い話なんて転がってはいない。一流のお笑い芸人であれば、何か笑いの神にでも愛されたかのように面白いネタが降ってきているのではないか……などと少し思い込んでしまっていたが、そんな都合の良い事などありえないのだろう。
面白いネタを仕入れたいのなら、センサーを張り巡らせ、小さな変化も見逃さず、そしてそれをちゃんと面白く扱う腕が必要なのだろう。
面白い事がない、何も面白い事がない、と言っているだけではダメなのだ。
そんな事を想像しながら歩いていると、やがてコンビニに着いた。
ドアを開けて中へと入り、買い物カゴを持ち、お酒コーナーへと進む。
今日は買うものは決まっている。とにかくプレミアムモルツの香るエールがまず最初。それからおつまみ。それと口直しに何か軽い飲み物でもあればいいかもしれない。
冷蔵庫のガラス越しにプレモルを確認し、ドアを開けて取り、カゴに入れる。
それでこのエリアでの用事は終了だが、何となくだが今日も棚のお酒を確認していってしまう。
じーっと端から見ていって、上下左右と流していって、中央列の上部で止まる。
「あれっ……。よなよなエールが置いてある……」
一瞬、思考が止まる。
何で置いてあるのか分からない。
確か数日前、来た時は置いていなかったはず……。
いや、もしかして、前に来た時は見逃した?
可能性としては、この数日の間に偶然品揃えが変わったと考えるより、前は僕が見逃しただけ、と考える方が可能性が高いと感じるが……。
前に来た時は目を皿のようにして端から端まで探したはずなのに……。
一瞬、若年性痴呆症、という言葉が頭に浮かぶ。
……いや、やめよう。本当に凹むから。
思考を現実へと引き戻し、よなよなエールをよく見る。
その流れでチラッと、缶の下、値札部分を見てみると……。
「は? 税込み二六八円? 嘘だろ? マジで言ってんのか?」
おいおいおい。
前回、二番目に近いコンビニで買った時は税込み三八八円だったぞ。
えっ、何? あのコンビニ、ぼったくってんの? と言うか、本当にこんな事ってあるの?
頭の中が疑問で埋め尽くされ、ぐるぐると脳内を回り、私はビールの棚の前で立ち尽くしてしまう。
「マジかぁ……。まぁもう仕方がない……事なのか?」
もう一度、棚のよなよなエールを見る。
ここのよなよなエールは棚の上部に陳列されてるので、その後ろに何の缶が置いてあるのかははっきりと見える。
流石にこの店ではよなよなエールの後ろに水曜日のネコ、東京ブラック、インドの青鬼を隠すような事はしていないらしい。
ちょっとほっとする。
まぁ置いてあろうとなかろうと、今回は買わないが。
いや、この値段を知ってしまった以上、もう二番目に近いコンビニでよなよなエールのシリーズを買う事はない。絶対に買いたくはない。なのでこちらの店に置いてくれないと次はどこで買えばいいのか困る事にはなるのか。
「まぁネットなりで注文すればいいだけなんだがね」
そう言いながら気持ちを切り替え、やっとの思いで棚の前から離れる。
棚の前に何分もボーっと突っ立ってるのは変な人でしかない。
スナックの棚へと移動し、カリカリ系を見繕う。
前回のように暴君を買ったりはしない。流石の私にもチンパンジー並の学習能力ぐらいはあるのだ。お酒のテイスティングをする予定なのに、つまみに暴君を買って大失敗するような愚行は繰り返さない。
そして次はカップ麺のコーナーへと進み、棚を端から見ていく。
やはりここのコンビニの商品は保守的だ。棚の七割は大手の定番商品と、そのシリーズの商品で埋め尽くされている。しかも一種類の商品が複数列に置かれているので棚面積の割に種類は少ない。店長の保守的な性格がよく出ている。
棚を順番に見ていくと、ある商品で目が止まる。
「ほぅ……。激辛味噌ラーメンか」
新商品の激辛味噌ラーメンが目に入る。
やはりこの激辛という文字には人を誘惑する何かがあるような気がする。
誘われるのだから仕方がない。据え膳食わぬは男の恥とも言うではないか。これは早速、試してみるしかない。
激辛味噌ラーメンを掴んでカゴに入れ、そのままレジへと向かう。
「さて、本当に激辛と名乗れる商品なのか、試してみようではないか」
そう思いながら、私は家へと急いだのだった。
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