第12話 ★エールを探しに行く

★この話は『とある作者の執筆日記』の第1話『★……で、エールって何?』からつながる話です。

★この話の後に直接つながる話も『とある作者の執筆日記』の第2話『実際に飲んでみよう』になっています。

 しかし、そちらを読まなくても大きな支障はないはずです。




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 とまぁ、そんなわけで深夜にエールを買いに行く事になったのです。

 ん? 何が『そんなわけ』かって?

 まぁ、それはまた別のお話で語っていきましょうか。


 そんなこんなで鍵と財布を持って玄関のドアを開けると……。


「寒い……」


 いや、寒すぎ。

 慌てて回れ右して玄関のドアを閉めた。

 これはどうやら着る服を間違えたらしい。

 というか横着して寝間着で行こうとしたのが間違いだった。

 とりあえず部屋に戻って、お気に入りのロングコートを羽織る。

 これでスウェット上下に黒いロングコートを羽織った変な人が完成したので、安心して出発する事にした。


 大通り沿いの歩道をゆっくりと一番近いコンビニへと進む。

 大通りでも人も車もいない。それこそが深夜の工業地帯。

 ここにいるのは、スウェット上下に黒のロングコートをなびかせて歩く男と、その男を追い抜いて歩道を突っ走るバイクだけである。


 深夜に配達ご苦労様です。

 でもそれ道路交通法違反ですよ。


 コンビニに着いた。

 ドアを開け、まずカゴを持ち、真っ先にお酒コーナーへと突入する。

 今日はこのコンビニにあるエールを全種類制覇する使命があるのだ。


「エール……エール、エール、エール、エール……」

 ビールの棚を前にして、ブツブツ呟きながら端から端まで虱潰しにエールを探す。

 あっ……冷蔵庫の裏側で商品入れてる店員さん居たんですね。気にしないで下さい。聞かなかった事にして下さい。


 そうして探していくも……。

 ない。

 そもそもエールって『エール』と表記されているのだろうか?

 原材料の違いはなかった気がする。

 表記してないなら、どうやって見分ければいいのだろうか。

「まずったかな……。せめて見分け方ぐらいはググってきたらよかった」

 しかし、既に遅い。もうここに来てしまっている。


 そう考えながら探していくと、酒類の棚の隅、左上の一般庶民殺しエリアで見つけてしまったのだ。

「プレミアムモルツ、香るエール、三五〇ml缶……二二六円」

 ちゃんとエールと表記してあってよかった。

 普段ならまず手を出さないビール。しかし今日はエールを飲まなくてはいけないのだ。贅沢だが買おう。

 おもむろに缶を取り出し、丁寧にカゴに入れる。


 しかし、もっと色々あると思ったけど一種類しかなかった。

 これはここのコンビニが悪いのか。他も同じなのか。ここだけでは判断が出来ない。

 本当はもっと色々なエールを飲み比べてみる予定だったが、これで予定が狂ってしまった。が、仕方がない。

 これはまた別のコンビニに行くしかないか。

 と、考えながらレジに向かう。


「いらっしゃいませ」


 その声を聞いて、レジのお兄さんをパッと見た。






 あ、最近見なくなってた丁寧な店員さん、復帰してたのね。

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