第6話 半ケツの女
遭遇率 1回
彼女と出会ったのは数年前の暑い夏の夜の事であった。
その日も深夜に一番近いコンビニへと赴き、酒とスナック菓子を買った。
ちなみに私の好きなお酒は麦焼酎。好きなスナック菓子はハードタイプのポテトチップスのうす塩味である。
前は芋焼酎の方が好きだったが、最近になって何故か飲めなくなってきたのだ。
味覚というモノは本当に面白いモノで、歳をとったり、特定の物を食べすぎたり、とにかく何らかのキッカケであっさりと変わってしまう事がある。美味しいと感じていたものが美味しく感じなくなり、美味しくないと感じていたものが美味しく感じられたり、そんなに不味くはないぞ、ぐらいになったりもする。
よく考えてみると、私が芋焼酎を好んで飲んでいた頃はまだ葉巻やパイプを嗜んでいた頃かもしれない。
葉巻やパイプは、商品にもよるが、基本的に普通の紙巻たばことは段違いに全てが濃くてキツい。必然的に、一緒にお酒を飲むなら濃い物が欲しくなってしまう。欧米で葉巻やパイプのお供にウイスキーやブランデーなど濃い蒸留酒が選ばれるのも、その影響だろう。
私はあまりウイスキーは好きではないから芋焼酎に辿り着いてしまった。そういう事なのかもしれない。
そしてハードタイプのポテトチップスのうす塩味はマストバイだ。
出汁醤油味とか、ビーフ味とか、わさび味とか、期間限定の色々なのとかあって、それも悪くはないが、やはり基本にして至高なる、うす塩味が一番だ。何に浮気しようが結局はここに戻ってくる。
黒胡椒味? お前は何を言っているんだ。捨てとけ、そんなもん。
とにかくあのハードタイプのポテトチップスはスナック界の革命だと思う。カリッカリを通り越してガリガリするあの食感は完全に今までなかった物だ。問題は、あまりに固すぎるから、食べていると顎が痛くなってくるところか。お子さんにはオススメ出来ないかもしれない。
熱くなってしまった。さて、続きを話そう。
そのコンビニで色々と買い、家へと帰る途中の事だ。
コンビニから家へと帰る順路にある最初の十字路。ここの角には大きな建物があって、角を曲がりきるまで先に何があるのかよく見えなくなっているのだが。
深夜だし先に何があっても危ない事なんてまずない。
そう思い、何も考えず、角を曲がった時。
その瞬間、何が目に写っているのか、わからなかった。
すらりとしたシルエット。薄いTシャツ。そしてスウェット……からはみ出すケツ。
座りながら、何か聞き取れないほどの小声で喋っている、その声を聞く限りでは若い女性だろうか。
そして私の頭の中ではハゲが歌い出す。
『もしかしてだけど~もしかしてだけどーそれぇってオイラを誘ってるんじゃないの~!』
いやいやねーよ。と思いながら、ハゲを叩き潰して彼女の横を素通りしようとする。
彼女がいるのは歩道の真ん中だ。そこを通るには彼女にかなり接近しなければならない。
今は深夜だ。普通は人なんてほぼいない。
深夜のひと気のまったくない道で後ろから若い女性に接近する。
あれっ、これってちょっとヤバいシチュエーションなんじゃないの?
何か変に思われたらどうしようか、という不安が頭を過るも、ここで立ち止まったらもっと怪しい。不自然だ。
平静を装い、何食わぬ顔で歩く。
横を通り過ぎるその時、チラリと彼女を見る。
そこには、彼女の手の中には、子猫がいた。
彼女は、猫なで声で何かを小さく呟いている。
お姉さん。
誘ってたのはオイラではなく、猫だったんですね。
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