見ないふり

ひょーじ

第1話

 買い物の帰り道。丁度会社が終わった友人を拾って車を走らせていると、道の左手に花束がたくさん供えられていた。最近ここで交通事故があった事は知っていたが、亡くなった方もいたらしい。

 ちゃんとあの世に行けているといいね、と話しながら心の中で手を合わせていると、友人が言った。

「大丈夫、道路の方見てなかったから」

 へ? と間抜けた声を出す私に、彼女は言葉を継ぐ。

「亡くなった方が何かの弾みで見えた時には『道路の方を向いていたら絶対に目を合わせるな。自分を轢いた車を探しているから、目を合わせたら持って行かれるぞ』って昔、知り合いが言ってたの」

 はあ、と相槌を打つ。彼女はいわゆる「たまに見える人」だが、私は「さっぱり見えない人」だ。

「たまたま見えちゃったんだけれど、さっきの人は道路に背を向けてうつむいて花を見てたから。四十九日過ぎたら上に上がれるんじゃないかな」


 じゃあ、そうやって背を向けている人が見えたらどうすれば? と聞いたところ、

「『そういう人は、上に上がる(成仏する)道がまだわからなくてそこに立っているだけだから放っておけ』って」


 どうあれ、亡くなった方を見かけたら、見ないふりをしてそっとしておく方がいいらしい。

 本当は霊は誰にでも見えるモノで、その領域にむやみに踏み込んでちょっかいをかけなければ問題は起こらないんですよ……と、別の友人から聞いたのを思い出した。

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見ないふり ひょーじ @s_h

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