一章 三話 スーパー家政婦
「・・・・はぁ」
「いつまで落ち込んでんだ、帰るぞ」
灰にせっつかれ、俺は帰り支度を始める。
「アルムさんがバニーガールに興味ないなんて・・」
「・・そっちかよ」
「どうにかして興味を持ってもらえないかなぁ」
空っぽの頭を振り絞り、妙案を考えながら帰宅する。
何個かアイデアが出るが、どれもパッとしない。うーむ。どうすればアルムさんにバニーガールの素晴らしさを・・
「・・趣味に積極的なのもいいがこの後のことも忘れるなよ」
眠そうではあるが真剣な顔でこちらを見る灰。お前が言えるのかな・・
「分かってるよ。切り替えるって」
まあ、言っていることは正しいので胸の中にしまっておくけど。
それにしても、灰は心配性だな・・真剣に決まっているじゃないか。
「それに、俺が約束を守る男なのは灰も知ってるだろう?」
誓った約束は必ず守る。俺の根底にあるポリシーだ。
「・・集合には遅れるなよ」
俺の答えに満足した灰は、再び気怠そうにしながら歩いていった。
「さて、俺も早く帰りますかね」
といっても「家」と表現するにはいささか大きすぎる「お屋敷」なんだけどね。
・・俺の家は今よりも遥か昔より続く由緒正しい一族。けれど、世間から見れば家がデカいことだけが特徴の、強い権力も知名度もない一族だ・・あくまで世間から見ればだが。
不必要なほど大きい門を潜り、そこから無駄に長い庭を歩く。
「たっだいまー」
玄関を開け。屋敷の何処にいても聞こえるくらいの声で帰宅の挨拶をする。
「お帰りなさい。咲夜」
少しすると割烹着を着た二十代ほどの若いお姉さんが迎えてくれた。
「ただいま花さん。お腹空いちゃった。」
・・この人は花さん。俺の保護者のような存在で、我が家の家事を一人でこなしてくれているスーパー家政婦さんだ。
俺が小さいころからここで働いていて、俺にとっては姉のような存在だ。花さんも俺を弟のように扱ってくれている。
「夕飯の準備は出来てますよ。今日は肉じゃがです」
「やった!俺、花さんの肉じゃがが花さんの料理で一番好きなんだよね」
「・・昨日の生姜焼きも同じこと言ってましたよね?」
「花さんの料理は何でも一番美味しいってことさ」
「全く、咲夜は調子がいいんですから」
呆れながらも優しく笑う花さん。
花さんはいつもニコニコしていて優しい。それでいて綺麗な人なもんだからドキドキしてしまう。もう少し年齢が近かったら確実に異性として意識してしまっていただろう。
「ですが、先に稽古をしてからです。牙鉄のメンテナンスもしておかないと」
・・まあ、優しさと同じくらい厳しいお姉さんなんだけどね。
「その前に少しだけ肉じゃがを・・」
「ダメです」
一蹴。
身長は俺のほうが高くなったのに、昔からしごかれているせいでいくら身長を越しても敵う気がしない。
「・・少し持って行きますから早く準備して道場に来てください」
俺のしょぼくれた顔を見て譲歩してくれる花さん。厳しいけど、やっぱり優しい人だ。
制服から動きやすい服に着替え、母屋から少し離れた道場へと向かう。
道場に入ると先に来ていた花さんが、工具のようなものを使い何やら作業していた。
「来ましたか。先にメンテナンスをするので牙鉄を出してください」
言われるまま、俺は首元から爪をモチーフにしたアクセサリーを取り出す。
「・・切り刻め、牙鉄」
キーワードを認証したアクセサリーは、その姿を白を基調とした手の甲の部分が大きい
籠手へと形を変える。
「・・花さん、この発声認証辞めようよ。恥ずかしいんだけど」
「どうしてです?カッコいいじゃないですか」
俺の抗議に不満そうな花さん。いや、高校二年にもなると流石に恥ずかしいんだって。
・・突然のことで驚いただろう。これが柊家の隠し持つ力だ。まあ、実際には違うところが多々あるんだけど、柊家は異能を扱う一族なんだ。
「武力」と呼ばれているそれは選ばれし者しか有していない・・わけではなく、個人差はあるが人はみな武力を有している。けれど、大抵の人は武力を使うことは出来ない。
・・武力は持っているだけでは何の効果もないからだ。ガソリンのようなもので、それ単体では何も出来ない。
そのため、武力を使うための専用の道具が存在する・・それが「
「神器」とは神の僕である「神器使い」になることで得られる武器。剣や弓、杖だったりと形状、種類は様々。所有者に常人離れした力と能力を与える凄い武器だ。
大多数、いや。ほぼ全ての武力を使用する人間は神器使いである。
・・え?「神」とは何かって?
言葉通りの存在だ。神話上の神から果ては付喪神まで・・知性を持つ人ではない存在のことをそう読んでいる・・おまけに全員美男美女なのも負けた気がすると同時に妬ましい。
・・ともかく。そんな神に仕えて神器を得ることで人は武力を使うことが出来る・・んだけど、実はそれ以外にもう一つ、武力を使える道具が存在する。
「・・蓄積ダメージが随分と多いんですが、無理に使ってませんか?」
「数が多いから防御にも使っちゃうんだ、これでも丁寧に扱ってるんだよ?」
肉じゃがを食べながら抗議する。花さんに負担が掛かることは分かってるけど、必要最低限のダメージってことで許してほしい。
・・武力を使うために人が作った道具、それが人具だ。
俺の「牙鉄」も人具を制作する「人具師」である花さんが作ったお手製の一品。人具にしてみればかなりの高スペックなんだぜ?
「よし・・っと!咲夜、装着してみてください」
花さんによって調整された牙鉄を装着し、動かしてみる。
「・・うん。いつもながら最高の出来。ありがとう花さん」
「牙鉄にも限界はあるので気をつけてくださいね」
無理に使うなと花さんに釘を刺される・・分かってはいるんだけどね。
・・人具と神器。
この二つの違いはただ一点。比較にならないほどの性能差だ。
仮に、人具で神器と同じことをするためには武力を何倍にも消費する必要があり、ただただ効率が悪い。
おまけに神器はいくつもの能力を持っているのに対し、人具は精々が三つ。なので人払いや防具としての補助的な役割を担うことが多く、攻撃手段としては普通は使われない。
・・それが分かっていて人具を使う理由?それは・・
「そろそろ始めますよ咲夜」
・・その話はまた今度にしよう。
「今日もパトロールがありますから昨日と同じにしましょう」
「・・つまり今日もハードメニューなんだね」
花さんは立てば芍薬、座れば牡丹。人具師としても一流で、家事や炊事もそつがない、まさに万能の体現者。
・・極めつけは、神すら凌ぐその鬼教官。小さい頃から花さんに
「そんなことないですよ。私に一撃入れるだけです」
「・・簡単に言ってくれちゃって」
稽古の最後、お情けで攻撃を当てさせてもらえてるだけで、本気の花さんに一撃をいれたことは今まで一度もないっていうのに。
「さあ、来なさい」
「はいはい・・!」
先手必勝。体を這うように低くし花さんの右足を目掛け、拳を振るう。
「ふっ!」
が、あっさりと躱されそのままカウンターの要領で腕を掴まれ投げ飛ばされてしまう。
「ぐっ⁉」
「昨日と同じ攻め方ではダメですよ。やるにしてももっと素早く動かないと」
・・やっぱり昨日はワザとくらってるじゃないか。はぁ。いつになったら当たるんだか。
結局、花さんのしごきは二時間近く続いたのだった。
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