白髪の老婆

サンタ

茣蓙(ござ)を持つ老婆

僕が中学2年生の頃だったと思う。

僕は、サッカー部に所属していた。

夜の8時から練習する夜練があった。

その日は、可愛がってくれる先輩と一緒に帰ることになり、

先輩の家を回って帰った。


先輩と、仲の良かった同級生のカッちゃんと自転車で、

先輩の家まで行き、先輩と別れた。

その後、かっちゃんと二人で、家に向かった。


時間は23時頃だった思う。中学生にしては遅い時間だ。

僕たちの住む街は、田舎で畑が多い。

初めて行く先輩の家の周りも畑が多く、電灯がほとんだなかった。

そんなこともあって、帰る方向がイマイチ良く分からなかった。


先輩の家に行くときに、橋を渡ったことは覚えてた。

その橋に似た橋を見つけて、帰る方向が合っていることが分かって安心した。

小さい川にかかるその橋は、15m程の長さで、自転車2台が通るのがやっとだった。

心もとない橋だった。その橋をかっちゃんと話をしながら渡った。


短い橋の中ごろに差し掛かったころかな。

僕の方を向いたかっちゃんが、

突然今まで見たことのないような形相をして、

一人で自転車を必死に漕ぎ橋を渡りきっちゃったんだ。


かっちゃん、どうしたのかな…。


内心そう思った私が、カッちゃんがいた向きとは反対の方向、

カッちゃんが見ていた方向に顔を向けた。


いたんだ。白髪のお婆さんが。目の前に。


ボサボサの乱れきった白髪のお婆さんが、

両手で胸の高さまで持ち上げた茣蓙(ござ)を持って。

立ってたんだ。

白髪は、顔の左半分を覆うように垂れ下がり、

右目は、これでもかというほどかっピラいて、

僕を見てたんだ。


目が合った瞬間、気が付けば自転車を必死で漕いだ。

橋を渡りきったところには、橋に背を向けた、

カッちゃんがいた。


「誰かいたよね」 僕が聞いた。

「うん…」カッちゃんが答える。


二人で後ろを振り向いてみると、誰もいない。

あまりにハッキリ見えたから、

その後に橋の周りにお婆さんがいなか探したんだ。

その時、またその橋を2人で渡った時、気付いたんだ。

その橋は、自転車2台で目一杯だったことを。

誰かいるとしたら、手すりの向こう側にしか、

立てないことを。


その日からなんだ、そのお婆さんは、

僕の前だけに現れるようになったのは。

カッちゃんじゃなくて。

僕の前だけに。その日からなんだ…。

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