22話 『シザの昼』

 日は天高く昇り抜ける、現在の時刻は十二時二十六分。

 季節がら気温が更に上昇し、その暑さを風物として楽しむ者達がいれば、人々やエルフは寄ってたかって魔法を使える人物の周囲に行く者達もいる。

氷魔法の使用を今か今かと待つのだ。

特に言及せずにその人物と世間話をした。

またこの時間帯、朝入れた食べ物が消化されていき、人々の腹に空腹が迫る。

暑さも加わっている為に冷たい飲み物を売る飲食店や地中海周辺の露店には人が多く寄る。

何を飲もうか、何を食べようかを幸福にも迷い、大通りや、飲食店が立ち並ぶ通りを練り歩く者も少なくはない。

 それには、たった今西部の城『レーン城』を見て回ってきたビンセント達三人も例外ではない。


【シザ国東部】

 「さて何食おうか、今一万Fフロンあるし、Gゴールド換算で一万二千位の価値あるんだから、大抵の物は食えそうだぞ」

「何食べようかしらね。改めて見ると、昼間でも屋台やお店は活気溢れているわね」

「皆もお昼御飯なのかな! 私もお腹すいてきちゃった! 」


 シザ国東部に行く予定は、元々ミルの帽子を買いに行く予定であったが、三人はまず腹を満たそうと、

店を見て回りながら好みの飲食店を探していたのだ。

「うーん、何を食うか」


 並ぶ飲食店は大きいものではなく、その分多種多様だ。

以前食べたホットドッグやサンドと言った軽食屋も出ているし、夜に出す料理顔負けな豪華なものを出す店もある。


「バルカス何食べてるかしらね。あ、ダボと一緒だからステーキかな」

「またバナナとかかな! 」

「ハハッ、流石にバナナ一本じゃダボが良くてもバルカスは怒りそうだけどな」


 三人が笑う炎天下、日を遮るオーニングの下で鉄板が材に美味くなれと唸っていた。

空腹者を誘う気をかもし出す音と香りは、素通りしようとする者達の足を止めさせた。


「あれ美味そうだな。あれ食べようか」

「賛成! 」

「お肉だー! 」

 三人は鉄板上の、いかにも羊肉なラムチョップが、下の香菜を通して香りと共に熱さていた。

その他にも薄切りの肉が包丁とヘラにより鉄板上で踊っていた。


 ビンセント達は鉄板横のカウンターへと行き、店員に何があるかを尋ねた。

「ここでは、主にラム肉を扱ってるよ! 仔羊は無いが、決まりのラムチョップも大きいし、ジャガイモの添えとパンが付いた料理はこの店の看板さ! 」


 ビンセント達三人は鉄板の方を見ると、ゴクリと溢れる唾液を飲んだ。

「美味そうだ、肉もデカいしがっつりと食えそうだ。飲み物は何があるかな? 」

「がっつり食う分には問題ないと思うぜ! 飲み物は水やオレンジジュースにぶどうジュース、後何といってもラムに合うのはワインだが、西部ブドウ園直送の赤があるぞ」

 ビンセントは飲み物を決め、カミラとミルにも注文を聞いた。

「ビンセントが飲むなら、私も赤飲みたいな」

「私ぶどうジュース! 」

 ビンセントは二人の注文を聞くと、気になることを店員に尋ねた。


「俺達はこの国に来たばかりでな、コレ三人分と赤ワイン二人分、後ぶどうジュースでいくらになる? 」

 カウンター上の料理名だけ載ったメニューを指さして、店員に料理の値段を聞いた。

「あぁ、一応言っとくが、うちは別に外国客にボッたりはしてないから安心してくれ。値段が載ってないのは、料理の値段が全部一緒だからだ。飲み物は分かれてるけどな。三人分のラムチョップの盛り合わせで二千四十Fフロン、赤ワイン二人分、グラスの値段で六百四十Fフロン、ぶどうジュースが二百Fフロン、合計二千八百八十Fフロンだな」

 これを聞いたビンセントは、クロイス国と比べて驚いた。


「ワイン安くないか?! っていうか、肉も安い気がする……」

「はっはっはっ、お客さんどこの国から来たか知らないが、シザ国はワイン製造も広くてな。税も低くて、ブドウ酒が安いんだよ。まぁ別にワイン全般に言わせたことではないが、果汁系の飲み物はどこもこんなもんだぞ。肉が安いのも生産力が高いからだ。まぁ詳しい事は企業秘密で言えんがな! 」

 話を聞いた後に改めて鉄板の肉を見て、ビンセントは安いと思った。

「にしても、安いな。店大丈夫なんだろうか」

「ハハッ、そんなこと心配するなよ! この国は料理や食材に文化的な力を入れてるからな! 余裕を持って支援してくれてんだ。それが無くてもぶっちゃけ余裕だけどな」


 店の話を聞いていると、国の経済状況を深く分かっていないとはいえ、ダボの苦労が少しうかがえる。

「それよりどうすんだ? さっきのやつ頼むか? 」

「あぁ、それで頼む」

 ビンセントが店員に見えないよう、カウンター下で境界を開くと、バルカスに換金してもらったFフロン紙幣を取り出した。

 値段分を払おうとするが、店の者に止められた。


「あぁお客さん。うち等は、って言うか、シザの殆どの店がそうだが、代金は後払いだぜ。満足してもらってから払ってもらう事になってんだ」

 そう言われてビンセントは今までの会計を思い出すが、確かにどれも後払いであった。

それは道に立ち並ぶオープンな店や、そもそも建物を持たない露店でさえそうなのだから驚かされる。


「分かった、じゃあ頼むよ」

「よしありがとう! 少しかかるから、あの席に座って待っててくれ! 出来次第持っていくから」

「分かった」


 ビンセントは紙幣を境界へしまうと、カミラとミルと共に席に着いた。

他の店に挟まれたくぼんだこの空間は、まるで一面だけ開いたオーニングのテントの様であった。

日は生地によって少し遮られ、一面の開口からはお決まりの地中海が街路を挟んで眺められる。


「ふー、美味そうだな、楽しみだ! 」

「楽しみ! 」

「そうね、それにしても安かったわね。クロイス国でもあれくらいの値段だったらいいのに」

「そうだな。贅沢感が薄れるが、美味いもんは美味いしね」

 カミラは今後のクロイス国の計画を、早い気もするが頭で考える。

「ねぇビンセント。クロイス国をどうにかできるなら、ココみたいに農園を作るのもいいかもね! クロイスってなかったよね確か」

「お、それいいな。サリバンさんに今度伝えようか。クロイスの周囲には国が無いし、料理を持って活性化させるのもよさそうだ。……あ、製鉄所とは離してだけどね」


 シザ国のいい点をあげる二人だが、同時にクロイス国に明らかに無いものが浮き出てくると、何とも目の前の風景を見つめていた。

「そういえば、クロイスって海なかったな」

「山はあるけどね。まぁ、それは仕方ないね」

「シザはシザの、クロイスにはクロイスの良いところがあるよ! 」

「確かに、その通りだなミル」


 山と国周囲に広がる平地。

生産を考えるには絶好の土地環境ではある。

 現在クロイス国では、サリバン率いるリーゼル隊が、その準備を着々と進めているのだ。

考えることは無限にできるが、実行となると時間と費用が掛かる。


「実際まとめる時を考えて、少しでも先を考えないとな。とはいっても、その時その時になりそうだが」

「これからだから、仕方ないよ。気長に行こう! 」

 ビンセント達が、影で開発されていくクロイス国を想っていると、カウンターに立っていた男が料理と飲み物を運んできた。


「お待ちどう様! ラムチョップとジャガイモの合わせ、赤にぶどうジュースだ! ぶどうジュース同様、赤も冷やしてある。冷やして出した適度な渋みは、そのラムチョップと相性抜群だぞ! 」


 ラムチョップは思ったより多く在り、深皿に並べられ、ジャガイモが同じく詰められて、一緒に焼かれていた大きな香菜もそのままのせられていた。

ソレとは別に、皿に大きなパンが三つのっかっていた。

コレが一人六百八十Fフロンとは、安い。


「うおっ美味そうだ! 」

「美味いぞ! ブエン プロベーチョ! (どうぞ召し上がれ! )」


 男はお辞儀をするとそのまま厨房に戻って行った。

香菜の香りが良くラムとジャガイモに絡みつき、甘くスパイシーな香りが食欲を増進させる。

「いただきます! 」


 それぞれ飲み物をまず先に飲み、ラムチョップを手に取った。

「ワイン、程よく冷えてていいわね。ラム肉美味しい! 」

「うん美味しい! 」

「美味いな、それに一本一本がデカいし量も多い……、ラムチョップは三本くらいかと思っていたが、まさか一人七本とは……、うん美味い! 」


 昼間、特に気取る気もなく、三人はラムチョップを片手に持ってかぶり付く。

特大のラムチョップを一本平らげると、汚れている手も気にせずフォークを手に取ってジャガイモを刺して口に運び、暫く咀嚼すると次はパンをちぎって口に入れた。

 勢いよく食べ、ラムチョップとジャガイモのおかげで大きなパンも平らげ、ワインを含んだ。


「――膨れた」

「美味しかった! 」

 七本あったラムチョップもあっという間になくなり、ビンセントとカミラは赤ワインで口を直し、ミルはぶどうジュースで喉を潤した。

「ご馳走様! 」

 すっかり料理と飲み物がなくなり、暫くすると店の者が皿を下げ、追加の注文はあるかと聞く。


「いやもう膨れたよ、美味かった! 」

「そうかい! そりゃよかった。ゆっくりしてってな」

「ありがとう」

 店員はまた厨房に戻り、他の客の注文を取って調理をしだした。

 ビンセント達は店の言葉に甘え、膨れた腹を落ち着かせるようにゆったりと席に座り、話し合った。


「ちょっと泳いでいくか。せっかくだし」

「広いし、気持ちよさそうね」

「気持ちよさそう! 」


 二人はビンセントの言葉に賛成したが、どうにも格好に悩んだ。

クロイスには水場が無く、それでも唯一泳いだ場所といえばネスタ山中の川である。

誰も近寄れない川ともあり、ビンセント達は下着姿かそのまま入っていたが、公衆の面前でそうするわけにもいかない。


「境界で水分と汚れは分けれるから、このままの服でもいいがな」

 カミラは『身体強化』を使用して、地中海で海水浴を楽しんでいる人達を観察した。


「……見る限り、下着みたいな感じね。みんなの格好。ミル見たいなワンピース姿の子もいるわよ」

「行ってみよう! 」

「何か泳ぐ用の服があるのかな。先に換金所行って、その服も買えたら買おうか」

「おー! 」

 目的が決まった三人は席を立ち、ビンセントはカウンターに行って会計を済ませると、換金所の場所を尋ねた。


「まいど! ――換金所か? それならこの通りを沿って歩くとあるぞ。矢印マークにFフロンって書かれた表示物があるから、それが目印だよ」

「そうか、助かった。ありがとう! 」

「どういたしまして。いい旅を! 」


 店員に見送られ、ビンセント達は言われた通りに沿って歩き、言われた通りの表示物が掲げられた建物を見つけた。

「大きい建物だな、なんだやっぱり普通に換金所あるじゃないか」

「あのマーク、この数日でも結構見た気がするよ! 」

「意外とあったね。バルカスはそこまで必死に隠していたのね、でもお金ができても、バルカスが良いっていうまではバルカスの館で泊まりましょうか」

「そうだな。バルカスも、その方が良いって言うだろうしな」


【シザ東部市内 換金所】

 換金所の建物内に入ると、内部も外壁と同じ白石壁に覆われているが、奥は分厚い金属の壁に覆われていた。


(厳重だな)

 大金を貯蔵する金庫は、やはりどこの国も厳重な守りで固められていた。

西部の警備のおかげもあり犯罪率は低く、パッシィオーネが絡む事件以外では起きていないが、コレだけの厳重な防犯壁は、見た目通りの性能を持っている。

 換金所の入口には二人のガードマン、その他にもガードマンは換金所内を監視している。

ガードマンの平均レベルは三十前後であり、一般市民や、雑多な盗賊がどうこうできる相手ではない。


(見る中、一番レベルが高くて三十四か、パッシィオーネの幹部が四十後半だったが、そこら辺の盗賊相手には十分なのかな? )

 高いレベルの環境に慣れだしたせいか、厳重な建物に比べてガードマンが心もとなく感じてしまう。

逆にガードマンや換金所職員から見れば、自身が知る中である、レベルの高いとされるバルカスが率いる警備、また武力部隊のレベルより高い存在のビンセントが入ってきたことに、細心の注意を向けた。


 ビンセント達が換金所のカウンターに着くころには、ビンセント達の後ろでガードマンが二人、万が一にこの三人が強盗だった時の為に緊張しながら立っていた。

そんな事とも知らずビンセントは、カウンター越しに声をかける。


「あのー、Gゴールドで五万Fフロン分だけ換金をしてほしいんですが」

 カウンターでビンセントの担当を受けた職員は、計算をすると、五万Fフロン分の換金に必要なGゴールドの額を提示してビンセントに伝えた。

「換金手数料込みで六万三千百二十五Gゴールドです」

 ビンセントは提示された金額を境界から出すと、カウンターに出した。

「それではお願いします」

「承知致しました。しばらくお待ちくださいませ」


 職員がGゴールドを受け取ると、その硬貨を調べ、奥の金庫に入ると五万Fフロンの紙幣を出してビンセントの元まで戻ってきた。

「お待たせ致しました。五万Fフロンでございます」

 ビンセントが五枚の紙幣を受け取ると、境界にしまって礼を言った。

「ありがとうございます」

「またのお越しをお待ちしております」


 役員はお辞儀をしてビンセント達を見送るが、後ろに立っていたガードマン二人は急ぎ散り、ビンセント達を通した。


(……俺もカミラみたいに制御スキルで、レベル表示を抑えた方が良くなったのかな)

 ガードマンに今気が付いたビンセントだけではなく、初めから気が付いていたカミラとミルは、ホッとするガードマンと、考え事をするビンセントを見て笑ってしまった。


「なぁカミラ。俺も制御スキルでステータス落とした方がいいかな」

「ビンセントはいいんじゃないかな。私達は世間体騒がれるのが面倒だからレベルを抑えて表示させてるけど、ビンセントは今後のことも考えてもこのままの方が良いと思うよ」

 カミラの意見を聞き、納得したビンセントはさっきの事を忘れた。

「そうか、そうだな。そうするよ」

 ガードマンの反応を特に気にすることなく換金所を後にした。


【シザ国東部】

 買い物をするのに十分な金額を得たビンセント達は、そのまま地中海の海水浴場へと歩いて行った。

街路を歩き、何度も階段を下りて地中海近くの道を歩いていると、すれ違う多くの人々が下着のような薄着を身に着けているのが目立った。

 ビンセント達は少し戸惑いながらも、通る人々に海水浴の事を尋ね、またその為の服装についても聞いた。


「なるほど、水着っていうんですね」

「そうですよ! この国は暖かいけど、この時期は特に暑いですからね。皆休みの日を利用して、仲間を連れて地中海へ泳ぎに行くんですよ。旅の人には珍しいんですかね? 水着を恥ずかしがることは無いですよ! 」

「そうなんですね、ありがとうございます! 」

「水着を持ってないのなら、地中海の砂浜に水着が買える露店が出ていますよ。着替えるところもありますから、是非着替えて泳いでみるといいですよ! 僕達はお昼食べてからまた泳ぐんですよ、それでは! 」

 二人の男女はそう言うと、手に持った広い布を羽織って歩いて行った。

「なるほどな、凄いな。皆あんなに肌を出して」

「少し恥ずかしいけど、皆そうだしいいのかな」

「早く泳ぎたい! 」

「じゃあ早速、三人分の水着を買おうか」


 砂浜に降りると、三人のテンションも上がってくる。

海では楽しそうな声が響き、砂浜では日除けの隣で寝そべっている人もいる。

周りを見てみると、さっきの男女が言っていたように露店がいくつか立ち並んでいた。

衣類を売っている店もあれば、軽食を売っている店まである。


「いい匂い、またお肉かな? 」

 ミルが鼻を利かせて匂いをたどると、砂浜上で鉄板と調理器具を出して肉を焼き、それを食べている人達もいた。


「泳ぎに、日向ぼっこに飯か! 自由だな、やっぱりシザは面白い! 」

「そうね! 早速水着を買いましょ! 私も早く泳ぎたいわ」


 ビンセントとカミラのテンションも最高潮。

暑く熱された砂浜を、周りの皆は裸足や、ミルのような薄い履物を履いて駆けたりしているが、

ビンセントはブーツで、カミラは底の高いヒールを履いて駆けていく。


「いらっしゃい! 何が欲しいの? 」

 店のエルフお姐さんが三人の格好を見ると、旅人か外国人かがすぐに分かった。

「もしかして、水着を探してる? 」

「あ、そうです! 水着探してます! 」

 ビンセントがそう言うと、店のお姐さんは微笑んで水着を取り出した。

「いろいろあるよ、例えばこれなんかは、私のような水着だし、コレは、そこのお嬢さんのような水着だよ! 」


 それぞれ下着のような水着を『ビキニ』ミルのような格好の水着をそのまま『ワンピース』と言い、ビンセントのような男性向けの、半ズボンのような水着を『パンツ』とよんだ。

 店のお姐さんはそれぞれ三人の体型を見ると、それぞれサイズの合った水着を選抜して見せてくれた。

中でカミラは、黒を基調としたビキニを気に入り、二人以外に体を見せるのを恥ずかしんだカミラは、パレオという、パレウに似た、赤い巻きスカートを手に取った。


「ビンセント! 私これが良い! 」

「おぉ、早いな。黒か、うん、似合うと思うよ」

 ビンセントは青色のパンツを選び、ミルはまだ悩んでいるようだ。

「うーん、どれにしよう……」

「焦らなくていいよ」

「うん! 」

 悩んでいるミルを気にかけ、エルフのお姐さんはミルに似合うような水着を選んで見せた。

「これなんてどうかしら」

 セパレートと呼ばれる、ワンピースを上下に分けたような水着をミルに見せた。

「下はパンツタイプにもできますし、それと合わせてパレオを巻けば、より一層可愛くなりますよ! 」

 水着の合わせに、ミルはカミラのと見合わせ、お揃いと思って喜んだ。

「色はどうされます? 」

「色? 白? 白が良い! 」

 ミルが言ったとおりの、白色の水着を預かった。

「それでは、この水着でよろしいですか? 」

「はい。あ、あと何か他に必要な物とかあれば教えて欲しいんですが」


 エルフのお姐さんは三人の足元に目を向ける。

そして暫くビンセントのブーツを見つめて口を開いた。

「後は海水浴をする時の、身軽な履物があれば十分ですね。こちらになりますが」

 三人の前に履物を出すと、それぞれ選んだ。

「これでお願いします」

「わかりました! 少々お待ちください」


 エルフのお姐さんは商品を預かると、値段の計算を始めた。

暫くすると、紙に金額を書いて提示した。

「水着各種と履物で計八点。合計八千九百四十Fフロンです」

 提示された値段を確認すると、ビンセントは境界から一万Fフロンを出して支払った。

「ありがとうございます! お釣りです」


 会計が終わり、三人はそれぞれ水着と履物を抱えて胸を躍らせた。


「隣に更衣室がありますので、是非使ってください! 後、実際に地中海の中に入る時は、その履物を脱いで入ってみてもいいですよ! 」

「ありがとうございます! それではお借りしますね」


 着替えるスペースは周りをよく見れば数があるが、この店の隣には個室の着替えるスペースが並んでいた。

ビンセントとカミラ、ミルの二人は別れて中に入り、それぞれ着替えた。

それぞれ衣類を脱いで買った水着を着ると、露出部が多い分、三人以外に肌を見せるという点では、

普段やらない事なので男のビンセントといえやはり恥ずかしい。


 ビンセントは脱いだ衣類を境界にしまうと、新しい履物を履いて外に出た。

カミラ達は少し遅れて、脱いだ衣類を手に持って出てきた。

「おぉー! カミラにミル、似合ってるよ! 」


 白金の髪を持つ二人は、それぞれ大人びた黒の水着を着ている。

赤の巻きスカートを巻くカミラに対し、ミルはその姿もあってか、可愛らしく幼いような、白い水着に金の巻きスカートをしていた。

 足元は水着に同色で、女性陣は脚にリボンで止めるタイプの履物であり、ビンセントはそのまま足にはめるタイプの履物を履いていた。

「ビンセントも似合ってるよ。……シャワー上がりの姿に似てるけど」

「ムキムキだーッ! 」

「はは、そうか! よし、じゃあさっきの店に礼を言って、思いっきり泳ごう! 」

「おー!! 」

 三人は水着を買った店の前に行き、更衣室を貸してくれた礼を言うと、エルフのお姐さんは三人の姿に喜んだ。


「おーっ!似合っていますよ皆さん! 」

「奥さんは、可愛らしいお姿ですが、大人っぽい水着が良くお似合いですね。羨ましいです……。娘さんは、やはり可愛らしい! そして旦那さん、服の上から見て思ってたんですが、改めて『生』で見ると分かる、ムッキムキですね!! 」


 三人の姿に、特にビンセントの姿に興奮を隠せないエルフのお姐さんは、カミラを物凄く羨ましみ、それと同時に納得した。

「いや、まぁ、その。……ははっははは! 元、剣闘士だったので」

 嫌な予感がするのか、あえて夫婦視されている点には触れず、エルフのお姐さんを受け流した。

「そうなのですか! どおりで……、うん、いいっ!! 」

 エルフの耳がピンと立ち、表情もにんまりとしているお姐さんを見ると、ビンセントと達は再度礼を言うと、足早にその場を去った。


「……なんというか、色々な人がいるな。二人の力は知ってるし、心配はないが……、さっきみたいのがあるかもしれないから、三人離れず行動しようか」

「そうね。そうするべきよ。離さないわ」

「さっきのエルフさん、凄い眼してたね! 」

 三人はいつものように引っ付き、地中海へと向かって行った。

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