13話 『シザ両国王との食事』

【シザ 酒場ペッシ】

 昨日の夕暮れ時にビンセント達三人は初めて西の地に足を踏み入れ、ダボやケニーと出会った。

 今現在も暑さが引いていく黄昏時。

涼しい風を肌で感じながら、バルカスとダボを含む五人は出会いの酒場へと、あえて境界を使わずに歩を進めて向かった。


「飲食店や酒場自体はだいたい昼過ぎから仕込みに入り、十六時位には店を開けている」

「あぁ、かといって初めから皆賑わっている訳ではない。徐々に、丁度ほら、店の中にも客が入ってきただろ」


 この時刻はシザの日中と夜の入れ替わりの時刻だ。

商業組織の施設は店や建物を閉じ、逆に飲食店は店を再開させる。

 働きに出ている者は飲食店に集まり、皆飲んでその日を楽しみ終えている。

そんな客がちらほらと、ビンセント達五人が入店してからもこの店に入ってきている。


「なんというか、仕事と遊びをハッキリ分けてるんだな、この国は」

「そうなるかな。やる時はやるし、遊ぶ時は遊ぶもんだ。その方が気も落ち着くし、楽しめるという者の方が圧倒的に多いからな。あくまでこの国は、だが」


 ビンセント達五人は店の二階テラス席に座っている。

ここからの眺めは良く、地中海が眺められ、暖かな光で輝いている街も眼に映していた。

 活気溢れる笑いを上げる者がいれば美しく情熱的に踊る者もいる。

美しい眺めはあるが、それに付け足して賑わう者達を見る者は、自身が飲む酒や料理が一層美味に感じられ、会話をしながら楽しむ者ならばより一層会話が弾むだろう。

 このテラス席はそういう、心情的なシザを一望できるという点を置いても、店の売りとなっている。


「いいな、この国は。見ているだけでも心躍るよ」

「そうね」

「楽しい! 」

「はははっ、そう言ってもらえると嬉しいな! なぁバルカス」

「そうだな」


 バルカスは確かに嬉しく思うが、まだ気になるところが幾つかある。

それはバルカスが統制しているシザの西部だが、パッシィオーネ無き今となっては改善をする事はいくらでも出来るだろう。

そう思う彼女の中では、このシザ東部の街並みが完成形として羨ましく感じるのだ。


「私の統制している西部も、ココみたいに活気溢れる場所にするか」

「そうか……、こんな事言うのもなんだが、俺はああいう静かな所も好きだけどな」

 ダボがそう言って笑うと、バルカスは意外そうに見ていた。

「へぇ、お前みたいなやつがああいった場所を好むとは意外だ」

「コレも分けるという話だろう。大いに賑わっていて、明るく楽しいのはこの国の売りだし、いい所ではあるがな。少しは静かな一面があって、落ち着く場所があってもいいと思うぞ」

「そこはゆっくり考えるさ。後、もう一つ気になる事がある」

 バルカスは今日の出来事と合わせ、今日出会い、解放した人々の事を頭に浮かべる。


「今日解放した元奴隷達だ。あいつらを西に住まわせ、発展させようと思う。西には殆ど人が済んでないからな。土地が有り余っているんだ、いい機会だろう」

「賛成だ。俺も元々そのつもりだった。シザ圏で解放された奴隷は、余るシザの土地に住まわせ、個人や集団としての質を元に戻してやるんだ。それでこそ解放奴隷は皆同じく人であるし、皆と同じように飯が食え、楽しみがある人生となるだろうな」


 ダボが言う事は四人が思う中正しく、またダボがまじめに言う事はバルカスにとって本当の事なのである。


「いい考えだな。お前がそういう事をまじめに言うのは少し意外だがな」

「はっはは、俺はこれでも元々王族だからな! 民への考え方も色々と勉強したよ。結局は、王と言えど俺は一つの民に過ぎない。ならば一民としてどう生きるか。俺はたまたま王として生きている。ならば王としてどう生きるかだ」


 ビンセントはダボの話を真剣に聞いていた。

ダボが王であるからだとか、また自分がいつしか王になる可能性があるからだとか、そういう点は薄れ、

その話が人を想う一つの考えであると、ビンセントがそう感じたからだ。


「確かにそう思うよ」

「いや、まぁ。ただ一つの考えだ。俺が経験した中、どうやら考えってのは人の数、エルフの数、精霊の数、または宗教の信仰心でも分れて無数にあるらしい。それを全て一つの考えで縛るっていうのは無理だ。一つにまとめれば、必ずまとめた者が反感を買うだろう。ならば全てを取り上げてはどうか? 

全ての意見を取り上げればその場のまとめ役への反感は無いだろう。だがまとめたはずの者達はまとまらず、その中で生まれる負の感情はまとめ役にまとまって降りかかってくるのさ」


 シザの国では風土がら、また長い戦争を挟んだという理由もあり、たまたま人々はまとまっている。

「俺がこの国を今まとめられているのは辛うじてだ。たまたまで、運が良かったからだ」

「たまたまっていうのは? 」

「ここはたまたま思想が一つだったんだ。というより長きに渡る戦争でな、それぞれの思想が足をもって散って、一番大きな思想がこの地にたまたま一つだけ残ったんだ」


 シザの前のこの地は、バルカスが治めるサンス王国と、ダボが治めるケル王国があった。

 ダボが治めるケル国内でも戦争が続く中での人々の思想は大きく、対魔物心と平和を願っていた。

しかし、思想という物は分かれるもので、ダボに反し国を出た者もいれば、種を超えて魔物も愛し身を捧げた者もいた。


 バルカスが治める前のサンス王国などは対魔物に対しての意識が強過ぎる事もあり、度々ケル王国を襲う事もあったのだ。

 その時のサンス国王は、魔物の大軍勢の報告を受けると一心不乱に闘争の準備を整え、全軍出撃を命令した。

その結果悪く、軍はその数半分を残して魔物の軍勢に返り討ちにされており、生き残った半分だけでもサンス王国に退却しようとするも、襲い掛かる魔物の前に全滅した。

その後は魔物の軍勢がサンス王国に押し寄せて、王国は一度滅んだのだ。


 その時サンスの民は多く死に、生き残りもバルカス達が助けたわずかの者だけとなっていた。

ケル国でも戦争で多く死に、国を離れていった者も多い。


「そこで、俺とバルカスは同盟を組んだんだ」

 改めてこのシザの歴史を聞いたビンセント達は、ダボとバルカスを見つめている。

「私はその時この土地の事が分からなかったから、シザ国になってからダボから聞いたよ。ケルとの関係や思想の違いもな」

「サンスに魔物が押し寄せた後、国王が変わっていたのはかなり驚かされたがな」

「別に勝手になったわけじゃないぞ。まぁ、そのつもりだったが」


 両国共民が多く減った事でダボは危機を感じ、国王が変わっている事に驚きながらも、ケルに和平交渉と同盟を持ち込むが、酒を飲んでいたバルカスに殴られた。

殴られたが話は成立し、サンスとケルは同盟を結んだ。

 ケルはサンスの国民を恐れていたが、バルカス率いるサンスの民は魔物からケル王国を守っていた為に、その恐れは薄れて無くなった。

ケルはサンスに民を贈って交流を深め、サンスはケルを守るという関係から、両国と民達はそれぞれを尊重し、共に心を許した。


 ダボはバルカスに対して国を重ね、一つの豊かな国を造る事を提案したが、バルカスはこの提案を始めは断った。


「断った理由は、分かると思うがパッシィオーネの存在だ。西部を寝床とするあいつ等を、わざわざ東の地まで拡張しようとは思わなかったんだ。面倒をかけるからな」

「思想が離れ分れて一つになってたんだよな? パッシィオーネって一体いつから在った組織なんだ? 」

「パッシィオーネの歴史は五十年位だそうだ。俺の親父が言っていたが、初めはただの盗賊団で、戦地跡に残った死体から装備品を盗って売りさばいていたらしい。人と金、組織が集り、パッシィオーネという造船業のまとめの組織を創ったんだ」

「五十年か、それが今日一日で終わるとは……」


 パッシィオーネの組織組員は皆我が強く、それでいてその世界に入る者は皆パッシィオーネの中での世界を創ろうとしていた。

パッシィオーネの中の組織は、それぞれ自らのボスを慕っており、その人物の世界を望んだのだ。

それぞれの組織にそれぞれの思想がある為に、ケル国やサンス国から出る者にとって、パッシィオーネという組織は思想がそれぞれ独立して身を納める場所が豊富だったのだ。


「もちろんそんな多思想なパッシィオーネ同士の抗争が全く無かったという事は無い。俺が知る限り、二つの組織がパッシィオーネの中で潰されていたらしいからな」


 昔は頻繁に行われていたパッシィオーネの組織内での抗争は激化し、組織の組員が別組織組員を殺し、組織を潰してもそれは変わらなかった。


「そんなパッシィオーネが、その頃から滅びかけているサンス国に度々来るからな、私が追っ払ってたんだ」


 バルカスがサンス国に攻めに来る組織を撃退する中にパッシィオーネは攻める事を止め、バルカスに交渉を重ねるようになる。

 条約や交渉をバルカスに提示するが、バルカスは組織側が出した提案を受けなかった。

バルカスに拒否を繰り返されたパッシィオーネはケル国を攻めると、再びバルカスに交渉をした。

 ケル国襲撃の報告を受けているバルカスは当然怒り、交渉をする組織組員を斬り捨てたが、組織の大隊を前には足も届かず交渉を受ける事となる。


「その交渉が、今日の午前中まではあったパッシィオーネに対する私の慈悲の条例だ」


 パッシィオーネはバルカスの許可を得ると、サンス国の海域を渡り貿易を法の影に隠れながら行えるようになった。


「そんな時、またダボが訪ねてきてな。合国を再び提案してきたんだ」

「あぁ、また俺は殴られたがな。俺もその時はバルカスとパッシィオーネ、そしてケル国の関係が明確ではなかったんだ」


 バルカスは提案をしに来たダボを殴るが、ダボはまずバルカスの話を聞いた。

少し悩んだが、バルカスはパッシィオーネとの関係をダボに話して聞かせた。

 自国が襲撃を受けたせいでサンス国とパッシィオーネが関係を持ってしまったことを恥、ダボはバルカスに一言言って許しを請うた。


「覚えてるぞおまえ、いきなり臨国王が地面に頭着けるからな」

「しょうがないだろ、こっちのせいなんだから」

「ダボはなんて言ったの? 」

「気になる! 」

「そりゃ国王にそんなんされたら驚くよな……」

 ビンセント達三人が興味深々に聞く中、ダボはちょっと照れながら咳ばらいをして口を紡ぐ。

「こいつはな、私に平伏して。スミマセンデシター! って言って――」

「だぁ、もう! いいよ、それからな、バルカス達と俺達で、いつか絶対まとめられるからって言って、後はあれだ! 頼りなく見えるかもしれんが、俺を頼ってくれって言ったんだよ! 」


 顔真っ赤にしながらダボがそう言うと、バルカスは大笑いしている。

「はっはっはっ、まぁ、確かに国務は殆ど頼ってるし。実際ビンセント達と出会えた事でパッシィオーネを潰せたからな。約束通り上手くまとまったと思うよ。ありがとう」

 バルカスが真っ直ぐダボに礼を言うと、ダボは意外そうな顔を見せたが、気持ちを受け止めて笑った。

「いいじゃない、両国王様お似合いよ」

「お似合い! 」

「カミラにミル、よしてくれよ」


 バルカスはダボの提案を受け、それから三ヶ月で正式に合国となり、国名も『シザ』となった。

民達はより親睦を深めたが、バルカスはパッシィオーネから民を守る為、民を元ケル国である東部へ移した。

それからというもの、シザは昨日までと変わらない統制を続けてきた。

 仮の二王制で、ダボが東部と民の統制、バルカスが国の防衛を主として行ってきていたのだ。


「まぁ、こういう事もあってこの国があるんだ。たまたま残った、一つにまとまった思想だからこそ、民同し中がいい国なのさ。まぁ、ビンセントも参考に出来るところがあったら、いつか来るかもしれない、王様ライフに活かしてくれ」

「そんなに望んでもないがな。しかしなるほど、いい話だな。シザの歴史は深い」

「まだ話す事もあるがな、ケニーが見えたからそろそろ料理でも頼もうぜ」

「飲み物くらい先に頼めばよかったんだよ」

「なぁに、ケニーも俺達の仲間だからな。皆揃ってからの方が楽しくて美味いだろ? 」

「それは分かるな」


 ビンセントが席を立って手すりに触れながら街路を見ると、息を切らせながら店に向かって走ってくるケニーが見える。

ダボも席を立つと、ケニーに向かって手を振った。

「よぉケニー、お疲れさん! 皆待ってるぞー! 」

「はぁはぁ……ぁあ皆ざん、お待たせしました! ダボ……終わらせましだよ、これで情報は行き渡ります! 」

 ケニーはそう言いながら酒場に入店した。

店員から拭き物を貰ったのか、布で汗を拭いながら階段を上がってきた。


「お待たせしました皆さん」

「よし、助かったよケニー。さぁ腹減った、席についてくれ! 注文を取るぞ」

 ケニーがダボの横に座って手を挙げて店員を呼ぶと、ダボとバルカスが次々と注文を入れた。

「一先ずは、これでいいだろう」

 店員は覚えきれずにメモを使って注文をとると、お辞儀をしてキッチンへと注文を通した。


「あぁ、腹減ったな。ビンセント達は昼何食ったんだ? 」

「俺達はホットドッグとバゲットサンドを食った、美味かったなあれ……」

「おぉいいな、俺は久しくそういうのを食ってない。俺は今日バナナだ」

「バナナ? ……バナナだけか?! 」

 バルカスが驚いて聞くと、ケニーが答えた。

「ダボは書類を作っていたので、今日は手軽でいいと言ったんです。それに、この夕食も楽しみにしてたんです」

 バルカスは頭に手を置いて失笑しながらダボを見た。

「お前一昨日の昼飯ステーキって言ってたじゃないか。落差が激しい奴だな」

「王様の昼がバナナだけかと思って可哀想に思ったけど、一昨日ステーキ食べてたのね。……心配の気持ちを返して」

 バルカスに続いてカミラにもこう言われては、ダボはもう笑うしかない。

「いやぁッはっはっは、まぁ、そう言うことだよ! 今が楽しみで量を減らしたんだ! 」

 そんなダボを見てケニーは溜息をついた。

「あのねダボ。ダボがいきなり食事をバナナ一本だけにしたから、職員の中からロッチがダボ様をいじめているという変な噂が立つんだよ……」

「なんでそうなるんだ? 」

「部下から見たらそう見えたらしいよ。僕もさっきこっそりそういうような噂が立ってるって聞かされたんだ」


 ケニーの部下達は普段ダボが昼食をとる時、ケニーがバルカスの部屋にビーフステーキを運ぶ姿を見ていた。そのせいもあってか部下達は、ダボが経費を使い過ぎたので、ケニーが怒って昼食をバナナ一本だけにした。と、こう見られていたらしいのだ。


「こういう事らしいんだ。一応否定したが、部下達からは帰り際に、程々に。と言われたよ」

 別にダボが悪い訳でも、ケニーが悪い訳でもないが、部下達からはそうやって見られていたようだ。

「まぁ、確かに普段ステーキ食べてるのに、いきなりバナナ一本だけとかになったら、誰しも驚くよな。

俺もバナナの話を聞いて、カミラと同じく一瞬だが可哀想に思ったし」


 ビンセントにまで言われてしまったダボは、眼のやりどころに困っている。

そんな中で癒しを見つけたようにミルの顔を見ると、ミルは微笑んでくれた。


「おー! ミルちゃんは見方だ! 」

「バナナっておいしいよね! 私も好きだよ! 」

「う、うん……。そうだ、ね」

 ミルは真っ直ぐな子であった。

「もうバナナの話はいいや、というより、もうバナナは当分いいや……」

「分かったダボ。でも買ったバナナが余ってるから、何かデザートとして使うよ」

「あぁ、そうしてくれ」

 ケニーはオーダーを受けると、メモに追加記入した。

暫くバルカスを中心としてダボをいじっていると、店員が料理をもってテーブルに現れた。


「おー待ってました! やっぱり肉だよな! 」

 ダボは表情が晴れて、その香りに鼻を引きつかせる。

テーブルは料理でいっぱいになり、ミルのグラスを除くグラスに赤ワインが注がれ、ミルには濃厚なぶどうジュースが注がれた。


「よし、揃ったな。じゃあ、地中海の恵みが、我らを飢えから守り、また飢える者には地中海の恵みを贈り給わん……。さて食おう! 」

 ダボが祈りを捧げると、皆グラスを手前に掲げた。


「皆お疲れさん! 乾杯!! 」


 普段の乾杯ではグラスを胸の前に掲げるだけだが、皆の気分も上がりグラスは更に前へ行き、それぞれのグラスがぶつかってグラスの高い音が鳴り響いた。


「あぁ美味しい……」

 バルカスがこうして人前で普通に酒が飲めるのも、ビンセント達の心的な支えがあってこそだと、本人とダボも理解している。

その為、ダボはバルカスが酒を飲む事に、もう口を挟む事や素振りもしなかった。


「皆での食事は、やっぱり楽しいな」

「なにしみじみしてるんだよバルカス! お前らしくもない! ほら肉だぞ、ローストビーフだ! 」

 ダボがうす切り肉を豪快にとると、そのままバルカスの皿に入れてやった。

「お? ありがとう」

 少し前のバルカスであればダボはココで一発殴られていたが、そういうことも起きないでいる。

(そうか、いいな。コレが仲間なんだよな。私の昔の残ってる戦友達も、ビンセント達に紹介しよう)

 バルカスは一人考えながら、自然と口元が緩むと微笑んでいた。

「私バルカスの笑顔好きだよ! 」

「んぁ!? 」

 不意にミルにそう言われ、バルカスは驚きつつも恥ずかしんで口を押える。

「私もバルカスの笑顔が好きだよ、ほら! もっと笑って笑って」

「戦場での笑顔とはまた違う笑顔だな、ほら、ダボも見てやれよ」

 カミラとビンセントにそう言われたバルカスは、無言で肉を口に頬張ると、料理を取り分け始めた。

「ほらミル! お腹空いてるだろ、もっと食べろ! 」

 無理やり話を逸らすのだった。


「バルカスのそういう自然な笑顔は、俺も久しぶりに見たな」

 少し前のバルカスならば、ココでも一発ダボを殴っていたが、今は手が出ないでいる。

「お? だいぶ丸くなったな! いやぁ、いいじゃないかバルカス! お淑やかに行こうぜ! あぁ、でもそうなると、殴ってきたバルカスが逆に懐かしいなぁ」

 バルカスは食器を置くと、右拳を固めてダボに振りかぶった。


「ちょとっんなんでっ!? 」

 プロテクトも張らず、ダボは調子に乗ったが為にバルカスの拳を腹に受けた。

「ぐぉ……」

 しかし以前のような吐いて悶えるような威力ではなく、ただの激痛であるからよかった。

「バ、バルカス……すまない」

「まったく、いいよ。今すごく楽しいし」


 清々しい顔をして笑みを浮かべるバルカスの髪を、風が撫でた。

外は涼むが、人々は盛り上がり続け、程良い熱を帯びている。


 外を見れば風景が分れる。

上を見れば静かな夜空が観え、下を見れば陽気な人々で賑わい輝いて見えるのだ。


「な、なぁそろそろ聞かせてくれよ、パッシィオーネ壊滅作戦の武勇伝を!! 」

 腹の痛みを抑えながら、一人うずうずして興奮しているダボは、バルカスの目を見て、そのままカミラ、ミル、ビンセントへと視線を世話しなくまわした。


「武勇伝って言ってもな……」

「そう、武勇伝だよ! 一日で組織を壊滅させた話を聞かせてくれ! 」

 ダボはチーズを肉でくるみながら勝手にヒートアップする中、バルカスはビンセント達を見て考えた。

「なんというかな。カミラも、ミルもビンセントも、戦闘能力がおかしいんだよな。あんなの見せられたら、昨日疑って心配していた私が凄く恥ずかしく感じる……」

「いや、バルカスも凄かったぞ。あの大剣を、重量を感じさせずに操って斬りまくってたからな……」

「おいおい、ちょっと待ってくれ! 俺をおいていかないでくれ! どう凄いんだ?! 」

「出発の時から話してあげたら? 」

「ピザ美味しかった! 」

「そうね、ピザは美味しかったし、演奏も素敵だったけど、ビンセントが境界を開いたところから話してあげたら? 」

「演奏?! ピザ!? なんだ、どういうことだ? 」

 話においていかれまいと焦るダボの為に、バルカスはカミラの提案を受け、バルカスとビンセントがダボに話し始める。


「まず、私達はビンセントの境界で、上空から降下して幹部の一人、ベリー邸を襲撃した」

「じょ、上空から!? スゲェ――!! 」

「ダボ、少し落ち着いて聞いた方がいいよ」


 ダボはケニーにそう言われると、こちらを見ている客の視線を感じ、謝ると席に着いた。


「すまない。それで? どうなったんだ!? 」

「カミラのオールガードがかかってるから、そのまま屋敷に突っ込んだんだ」

「上空からの襲撃なんて初めてだったからな、楽しかった」

「そうだな、だが初めてにしては、バルカスは器用に体を使ってたな」

「途中で慣れたからな」

 バルカスとビンセント、たまにカミラとミルが入ってダボに話して聞かせた。


 夜は長く、まだ始まったばかりである。

ケニーは経費のメモをみると、追加の料理を注文していった。

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