星を観る人

筒井井筒

第一話 星に願いをなんて

 ─もしも、あの空のどこかに星々を生み出す大きな工場があったら。そんな一粒二粒の輝きを溜め込む大きな槽があったなら。きっとこの藍色の銀河団は、誰かがその槽を壊してしまったせいに違いない。


 遼遠の彼方から押し流された星座が、それらの高貴な輝きが、わたしが息を飲む間に目の前過ぎ去っていく。それは轟々と流れ下る洪水のようであるのに、どうしてあの豪雨のように、重い星々は滝になって落ちてこないのだろうか。


 開いた雨傘に載った星の滴は、昔舐めたドロップの味。そのさわやかな甘みと悶えるような苦味に、わたし私は埋もれて叫びをあげる間もなく消えてしまうだろう。


 だから、わたしはここにいる。古く錆びた錻力の空き缶に乗りつづけ、一房のたんぽぽの種子とともに。わたしは足りないものを求めて、わたしがわたしでありつづける理由を探すために。

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